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第50話
様々な方向からまとわりついてくる灰色の感情と、目の前の出来事をかき消すかのように、毅然と靴音を立ててオフィスに戻りかけたその直後。
「…森山さん!」
少し慌てたような佐藤の呼びかけに、近くの人達が振り返った。
ユリカの耳にも、確かにその懐かしい声は届いた。
反射的に立ち止まり、佐藤の低い声を背中で聞く。
「待って、森山さん!」
もう、これ以上傷つきたくない。
思い出したくない。
触れる必要のなかった傷跡を、自ら素手で掘り起こしてしまった。
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