デート

10/10
前へ
/32ページ
次へ
「あれ?お前、そのお守りどうした?」 水田さんにもらったお守りを鞄にぶら下げていると、七海に聞かれてしまった。 「あ…うん、もらった」 そう返事をすると 「お前の試験、いつだっけ?」 特に深く突っ込まないで居てくれる七海にホッとしながら、学校へと歩いていた。 「でも…航空工学科って、お前も思い切ったよな」 七海が呆れたように呟いた。 「大学がダメだったら、専門学校に行くつもり」 「整備士だっけ?まぁ、お前に向いてるんじゃねぇか?」 いつだって、七海は僕がやりたいことを否定しないで応援してくれる。 「ありがとう。七海はサッカー選手?」 って聞くと、七海は僕の顔を見て笑うと 「さぁな」 とだけ答えた。 受験日が近付き、水田さんの事を考える時間が無いくらいに日々が過ぎて行った。 そして水田さんのお守りの効果なのか、僕は無事に第一志望の大学に合格する事が出来た。 受験勉強漬けの毎日が終わり、僕がホッとして久し振りのお休みに散歩をしていた時だった。 「実君?」 突然、背後から声を掛けられて驚いて振り向くと、水田さんが立っていた。 「水田さん…」 驚いて水田さんの顔をガン見してしまい、ハッと我に返って 「あの!お守り、ありがとうございました。無事に大学、合格しました」 そう言ってお辞儀をすると、水田さんは僕の隣に歩み寄り 「良かった。少しは役に立ったんだ」 と言うと、ふわりと微笑んだ。 その時、僕の胸がギュッて苦しくなる。 思わず俯いてしまうと 「あのさ…」 と水田さんは呟くと、僕の腕を掴んで 「あれから、ずっと考えてた。受験で忙しくなって、会えなくなって…。どうしてだか、最後の実君の悲しそうな顔が忘れられなくて…」 そう言うと、水田さんは僕の頬を両手で挟んで上に向かせると 「俯かないって言ったよね?」 と言って微笑むと 「実君…あなたに恋しても良いですか?」 そう、水田さんが呟いた。 「え?」 驚いて水田さんの顔を見ると 「一緒に、この想いを育てて行きませんか?」 水田さんの言葉に、僕の瞳から涙が溢れ出した。 「僕で…良い…んですか?」 と呟くと、水田さんは僕の涙を拭いながら 「実君が良いんです…。だめですか?」 そう言われて、僕は僕の両頬に触れている水田さんの手に僕の手を重ねて 「僕も…水田さんと……」 と呟いた言葉を水田さんの唇が塞いだ。 そして優しく僕を抱き締めると 「自分の気持ちに気付くのが遅くて、傷付けてごめんね」 水田さんの言葉に、僕は首を横に何度も振った。 水田さんはそんな僕に優しく微笑むと 「実君、俺と付き合って下さい」 そう言ってくれた。 僕は涙でぐしゃぐしゃな顔だったけど 「はい!」 と、笑顔で答えて水田さんに抱き着いた。 桜が咲き始める季節よりちょっと前に、僕の初恋は実りました [完]
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

144人が本棚に入れています
本棚に追加