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「何、お前。あいつに告ったの?」
ドアを開けた七海の声。
第一声がそれかい!って言葉を言われ、思わず涙が止まった。
「なんだよ、その言い方!」
僕が泣き笑いすると
「お前…、泣くか笑うかどっちかにしろ!」
そう言われて、鼻をつままれた。
「七海…、ダメだった」
「うん」
「でも…頑張ったんだよ」
「うん」
俯いて呟く僕に、七海はただ頷くだけだった。
僕の隣に座り、黙って僕の話を聞いてくれていた。
一目惚れで初恋で、あっという間に玉砕した恋。
それでも、一緒に居てドキドキした。
指先が触れ合うだけで、触れた部分に心臓が降りてきたんじゃないかって程、脈打つように熱くなった。
目を閉じると、今でも水田さんの今日一日の色んな表情が思い出せる。
笑った顔、得意げな顔、困った顔、優しい顔、悩んだ顔…。
そして最後は…僕に見せた悲しそうな困った顔。
でも、これで良かったのかもしれない。
これ以上、仲良くなったらもっと好きになってた。
もっと失恋した時が辛かった。
流れる涙を拭って
「でも、後悔はしてない。俺、水田さんを好きになって良かったよ」
そう言って七海に微笑んだ。
七海は辛そうな笑顔を浮かべて
「そっか…」
と言うと、僕の頭を撫でてくれた。
「七海、駆け付けてくれてありがとう」
僕が言うと、七海は僕にデコピンして
「ば〜か!当たり前だろう。幼馴染みなんだから」
そう言って僕の頭を抱き寄せて
「泣きたいだけ泣けば良い。今日はいっぱい泣いて、明日又、笑えるまで一緒に居てやるからさ」
って呟いた。
「七海…お前良い奴だな」
僕はそう言って、七海の腕の中で思いきり泣いた。
泣いて泣いて泣いて泣いて…、でも、僕の気持ちは諦めきれなかった。
その後も、水田さんは優しくて、前と変わらない態度で接してくれた。
だから僕も、水田さんに対して普通に振る舞うようにしていた。
ただ、食事は誘われても断り続けた。
大学受験があるからって…。
嘘じゃないけど…、近付けば欲が出てしまう。
だから僕は、一定の距離を保って水田さんと接するようにしたんだ。
水田さんにとっては、弟みたいな存在なんだって言い聞かせた。
大学受験が近付いて、僕は学校の後は予備校に通い始めた。
この気持ちを誤魔化すために、必死に勉強した。
帰宅する時間帯が変わり、水田さんと遭遇する事も少なくなってしまう。
こうして…時間が解決してくれるんだろうって思っていたら、帰宅した僕の勉強机の上に合格のお守りが置いてあった。
母さんかな?ってお守りを持って下に降りると
「あぁ、それ。宅配のお兄ちゃんが、あんたに渡してって」
と、姉ちゃんがテレビを見ながら呟いた。
(水田さんだ…)
そう思って、お守りを握り締めた。
優しくされると…辛くなるのに…。
泣きたくなる気持ちを堪え、僕はそのお守りをポケットへ入れた。
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