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私は結局、初心者用の服の作り方を一切理解できなかったので、二週間を待たず借りた本を返却しにやって来た。
今日は図書館は閉館日なので、外にあるブックポストに、借りた本を投函する。
「おこげー、行くよー」
その声に私が振り向くと、図書館前の緑道を、少し老いた雑種犬と、よく日に焼けた黒髪の青年が散歩していた。
その犬の特徴的な毛並みには見覚えがあった。
私は歩みの遅い犬のそばに近寄り、声をかけた。
「可愛いですね、お散歩ですか」
青年は、少しはにかみながら、
「ハイ、もう年だけど、散歩は好きで」
と言った。
「何歳のワンちゃんなんですか?」
「それが、正確な年は分からなくて……。獣医さんが言うには、十四才位だろうって。元々野良犬で、俺が拾ったから分かんないンすよね。飼おうってなったら保健所に連れてかれてて、慌てて警察とか、保健所とかメッチャ電話しました。親がだけど」
私は許可を貰って、おこげの頭を撫でる。
なるほどふわふわで、ちょっと固い毛並みだった。
「よかったなあ、おこげ」
おこげは、写真で見たときの表情とはうって変わって、目じりが下がり、舌が出ていて、笑ったような顔をしていた。
私は青年に挨拶をして、彼と反対方向に進んだ。
鼻歌で、自然とジャスティスイレブンの曲を歌っていた。
少年が、一瞬だけこちらを見、「おにいちゃん?」と言ったことに、私は気付かなかった。
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