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少年の足のサイズを、鳩麦さんは物差しで簡単に計測する。
大体十八センチ前後だ。
「幼稚園生か、入学したての小学一年生ってところですね」
「そんなことも分かるんですか、鳩麦さん」
「足のサイズの平均なので、一概には言えませんが。でも大分絞られました。十年前に六、七歳の少年なら、なんとか気合いで探してみます」
鳩麦さんは、本のコーナーへと足を向けた。
『おにいちゃん、ジャスティスイレブンしってるの……』
小さな足の持ち主が、私に聞いてくる。
「勿論です、私はジャスティスシリーズの主題歌なら、産まれる前のものまで全て歌えます」
私は胸を張って答える。
『じゃあいっしょにうたお! ぼくもうたえる!』
透明な少年の言葉を私は快諾した。
せっかくなのでイントロの部分から再現する。透明な少年はやや戸惑っていたが、私は少年の歌声に合わせて、バックコーラスやシャウトを完全再現した。
歌っているうちに、少年の姿は腰の辺りまでうっすらと見えるようになった。
主題歌の二番の間奏に入る台詞を真似している最中、鳩麦さんから呼ばれた。
「首藤さーん、この辺りの本、取り出すのを手伝って貰えますか?」
私は鳩麦さんの声のする辺りに少年と移動した。
相変わらずどの本も真っ白で、まるで見分けがつかない。
「今十七、八歳の子の本なら、とても新しいですよ、首藤さん。まるで瑞々しくて、本の角がスレたりしていなくて」
はらはらと、鳩麦さんがページをめくる。
私にはどの本も美しく、白く、まるで違いが分からない。
「ただ、『おこげ』と言うキーワードでは、私にはまるで検討がつかなくて……。総当たりで彼に本に触れてもらって、思い出してもらうより他ないんですよね……」
私は閲覧用の机の上に、鳩麦さんに指示された本を置いていく。
「そうだ、首藤さん。さっきシンデレラのお話を図書館で全部読んだって言ってたじゃないですか? シンデレラは、『灰かぶり姫』や、『サンドリヨン』なんて別の呼び方があるのは勿論ご存知ですよね?」
「えっ!!!!!!??????」
えっ!!!!!!??????
私の狼狽に、鳩麦さんが半笑いになった。
「……。シンデレラは、元になったお話を、色んな作家が手を加えて世に発表しているので、呼び名もストーリーも、作品ごとに大分雰囲気が変わるんですよ。魔法使いのおばあさんじゃなくて、白い鳩が助けてくれたり、グリム童話だと残酷にも、御姉様の足の指やかかとを切ったり……」
「えっ!!!!!!?????? 足を!!!!!!??????」
私の驚きの声が、信じられないほど響き渡った。
「まあ、全部読めたのなら凄いんですが、もし知らなければ別の呼び名の分も目を通せば楽しめるかなと、老婆心から思いまして……」
私は冷や汗が出た。視聴覚コーナーで見たビデオに出てくる姉妹は、足を切られたりするのか……。
「鳩麦さん、シンデレラが服や帽子を作ってやったネズミは、ひどい目に合っていないですよね?」
「帽子? なんの話ですか?」
鳩麦さんは、本を閉じて私に手渡した。
「おこげと言う情報を、ざっと探しましたが見当たらなかったので……。彼に一冊ずつ本に触れてもらいましょう」
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