行く先は感情図書館

5/8
前へ
/8ページ
次へ
 鳩麦さんは、一冊ずつ本を少年に渡す。  少年は胸元まで姿が現れているのに、なかなか正解の一冊が見当たらない。 「彼の服に名札でもあれば、もっと探しやすかったですねえ、鳩麦さん」 「今は防犯上の理由から、名札は学校に居る間しか付けないそうですよ」 「じゃあ、この子の現状は登下校の最中なんだ」 沢山の白い表紙の本は、少年には重そうだ。 一冊ずつ持たせて、何も起こらなければ、次。  次。  次。  次。 『おこげ!!!!!!!!』 少年が、一冊の本を手にした途端、本は金色に輝き始めた。 風もないのにページが次々とめくり上がり、空中に浮き、ゆっくりと回転する。 『おにいちゃん! みて! おこげ、おこげだよ!!! おこげ、ぼく、さがしてるの!!!』 少年が指差したページには、柴犬をベースにした、雑種の犬の写真があった。  頭の一部だけ焦がしたように茶色い毛が生えていた。  そして犬にしては悲しそうな表情をしていた。 「あ……」 鳩麦さんと、私は犬の説明文に、言葉を失った。 『ーーおこげと名付けられた雑種犬。両親と飼育の約束を取り付けた日に近隣住民に拾得物(しゅうとくぶつ)として警察に届け出有。その後、保健所にて殺処分』 おこげは、もう、居ないようだった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加