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『おにーちゃん、おこげ! おこげ! この子、おこげっていうの! なまえつけたんだ!! こうえんにずっといて、おとーさんとおかーさんに、きのう飼っていいって言ってもらったの!! だからむかえに行ったんだけど、……』
私の指先が、痺れたように冷たくなる。
おこげの事を伝えてくれる少年は、丸い子供らしい輪郭をした、黒い髪の利発そうな子だった。
『おこげ、いなくて……。おとーさんも、おかーさんも、犬飼ったこと無いから、だれかが拾ったのかもって……あきらめようって……』
鳩麦さんは、ぎゅうと唇を噛み締めた。
私も胸が苦しくなって、姿が見えるようになった少年の両肩を抱き寄せた。
先に、とぎれとぎれに、言葉を紡いだのは、鳩麦さんだった。
「……。あのね……、おこげさんの件なんですが……」
少年が、不安そうに僕らを見上げる。
「ここに記録のある通り、おこげさんは、残念ながら、あなたと家族になることが……できなくて……」
優しいのに、悲しい声だ。
少年の目に、涙が沢山溜まる。
鳩麦さんも涙をこらえる。
私は。
私も、なんとか声をかけたかった。
少年と一緒に歌を歌った時のような気持ちを取り戻したくて、必死に考えを巡らせた。
昨日?
少年は、昨日と言ったか?
「鳩麦さん!!!」
私は大声を出した。
「名前が違うんです!!!」
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