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鳩麦さんと少年は、目に涙をたたえたまま、驚きながらこっちを見た。
「そうだ……。言う通りです、鳩麦さんの言う通り、名前が違うんですよ! シンデレラが『灰かぶり姫』だったように、犬が『おこげ』だったように!
鳩麦さん、見てください。この本、おこげの説明文『拾得物』とあるんです。動物を警察に拾って届けた場合、『拾得物』、つまり、生き物ではなく、落とし物を拾ったという手続きになるんです。
落とし主が警察や保健所に届けを出さなかったり、引き取り手が居ない場合は殺処分になるんですが、少年のお父さんお母さんは犬を飼ったことがないからそのことを知らないのかも。
『遺失物』、つまり少年の家族がおこげを落としたと届けを出せば、まだ殺処分には間に合うかも知れない!!!」
鳩麦さんの頬が、薔薇色になった。私は少年の目をまっすぐ見つめ、こう言った。
「良いかい少年、家に帰ったらすぐ、家の大人に『おこげのことを警察と保健所に聞いて』と言うんだ。おこげの特徴、頭に黒い毛があって、茶色の犬なこと、全部言葉で説明するんだ。それをがんばれば、おこげは助かるかも知れない。いや、きっと助かる。君と、ジャスティスイレブンが、おこげを救うんだ!! 出来るな?」
少年は、力強く頷いた。
鳩麦さんがメモ用紙に、おこげの特徴を出来る限り詳しく書く。
「これを渡したら、大人にももっと早く話が通じると思います、頑張ろう、きっとおこげは救えます!」
鳩麦さんのメモ用紙を、少年は力強く握りしめて、勢いよく図書館から飛び出した。
私は祈るような気持ちになって、頭を垂れた。
目の前が一瞬だけ暗くなり、感情図書館のカーペット敷きの床が溶けたように錯覚する。
気が付くと、手品のときにかかる有名な曲、『オリーブの首飾り』が流れていた。
辺りを見回すと、そこはもう、いつもの■■市図書館前だった。
「鳩麦さん!!!」
私は大声で振り向いたが、そこには彼女は居なかった。
ただ、帰宅前の利用者と司書の方々が、怪訝な顔をしていた。
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