往復書簡 2 はじまりの物語

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カツン! 「あ!」  授業開始、3分前。乗ってきたスクーターを抱え息を弾ませて教室に駆け込んで、椅子にどっかり腰を下ろす。その途端、足先に何かが当たって、思わず声が出た。慌てて目で追うと、”それ”は2つ前の机に座っていたりょうさんのほうへくるくると滑っていくところだった。 「あれ? ゆいさん、これ、落としたよ?」  屈みこんで拾い上げ、りょうさんがこちらへやって来る。ぱたぱたと埃を払ってから、はい、と手渡されたのは、目を細め首を突き出した…水鳥? 「なんだこれ、アヒル?」 「え、知らないの? ていうか、ゆいさんのじゃないの?」 「知らない。いや、ここに落ちてたらしいのを、蹴っちゃってさ」 「あ、そうなんだ。これね、最近人気の、眼鏡メーカー、オリジナルマスコットで、“見にくいアヒルの子”ね」 「アヒルの子? って、あの童話の?」 「違う違う(笑)。そのお話の、えーと、パロディ? 目が悪くなって、何かを一生懸命見ようとしてこんな顔になっちゃってるの。眼鏡をかけた“見えてるアヒルの子”ってのもあってね、仲良しの証として、ペアで持つのが流行ってるんだって」 「へえ」  ゆいさんが持つと随分小さく見えるね―りょうさんが笑いながら言う。 「落とし物なら、失くした人、がっかりかもね。レアなやつだから」 「レアなのか」 「そう、だって、眼鏡作らないともらえないものだから」 「そうか…」  大事なものを失くすのは哀しい。手元に戻るか不安で落ち着かない。仲良しの証なら、なおのこと心配だろう。だから、放っておけなくて。  貼って剥がせる付箋を1枚取り、ゆっくりとメッセージを書きはじめた。
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