1章 その1

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1章 その1

 乗り鉄、撮り鉄、車両鉄、音鉄、収集鉄。鉄道ファンっていろんな棲み分けがあるんだそうね。「鎮夫さんは何鉄なの」と聞くと、「いや僕はオタクなんて言えるほどマニアじゃないんだ」なんていう。それでいて「じゃあ私は駅弁鉄になる」なんて言ったら鎮夫さん、えらい喜んじゃって。駅弁なんか嫌いな人いないってゆーの。鎮夫さん、あなたは立派な鉄道オタクですよ。  花田鎮夫さんは現在、私の恋人ということになる。とても愛してる、いつも一緒にいたい、二人の家庭を持ちたい、なんていう相手じゃないんだけど、現在の私のたった一人のエッチ相手だ。やがて五十になるアラフィフなんだからエッチ、と言わずにセックスと言うべきなんだけど、そんな愛のあふれる行為をしている自覚はない。ただ抱き合って、触りあって、大股広げて彼のものを受け入れる、それだけだ。お互いに「愛してる」なんて口にしない。声を出せば別の言葉になってしまう。  それは例えばこんな言葉だ。 (列車のクロスシートでやりたいと思ってんでしょ) (うお、やりたいやりたい。こんな格好して足広げて) (おしっこしたい高校生が来たらどうすんの) (見ててもいいよって言ってやる)  妄想すると彼のあそこがひとまわり大きく硬くなるのが気持ちよくて、よくそんなことを口にする。で、ことが終わったあとは「綾香は駅弁鉄じゃなくて駅弁立ち売りスタイル鉄、駅弁売られ鉄、なんか長ったらしいな。ハメ鉄だ、綾香はハメ鉄だ」  なんてことを言って喜んでいる。  でもそのあとが憎たらしい。私の二段に膨れたおなかを撫でながら、「実際には抱えられないけど」などと言って笑うのだ。「ぽっちゃりが僕の好きなタイプなんだ」なんて言って近づいてきたくせに、いざことが終わればそんなことを平気で言う。もっとも私は着やせするタイプらしくて、昔に付き合っていた男から「騙された」と言われたことがあった。  その男は「日本人は骨格からして、スリムで格好よく見える人は裸になると、ただただ貧相なだけ」なんてことも言っていた。ぽっちゃりが好きだと思うから裸になったんですけど、ぽっちゃりの度が過ぎてるのかしら?スリム好きな人が見たら、そりゃショックな体型ですわ。
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