1章 その1

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 しかしまあアラフィフとしてはデブを笑われたくらいでは心が痛むことはない。私に釣り合わないほどゴージャスな相手じゃないのだから。でもそのほうがエッチに専念できる。男が私の上で腰を激しく動かしている時は信じられないくらい幸せいっぱいだ。男はそのうち「いくよー」なんてどこにも行かないくせにそんな言葉を漏らすと、ゴムに包まれたあそこからも白いのを漏らす。それが出たらお終い、あそこがたちまちしぼんでいく。そして身体が離れたとたんに幸せはばたばたと大きな物音を立てていってしまうのだ。 (鎮夫さん、幾つだったっけ)と私は彼の薄い胸板を見ながら聞いた。 (四十五、独身です。医療品販売の営業をやってます。今月も目標に届きませんでした) (アハハ、そんなこと聞いてないんですけど) 「四号。あなた、いつまでそんな男と遊んでいるつもり?」  私の後方から声が聞こえた。振り向くと、やっぱり三号の声だった。 「夢は大事だけど、身体の欲望に応えることも大事だと思うんだけど」と私は言った。  人生四十八年もやってると、いろんな局面においてものの見方、考え方が変わる。将来の夢とか目標も変わる。今の私はここでは四号と呼ばれていて、三号はまだ三十代半ば、パーフェクトな男性と家庭を持ちつつ作家になるのを夢見ていた、そんな時代にこの世界に君臨していた私の夢の残骸ともいえる存在だ。 「昔はもっと男性を見る目があったわ。あんなやせっぽちで薄ら禿げのオジサンとエッチなんか絶対にしなかった」 「そりゃ私自身、まだ若かったからね」 「それと最近は書いてないわね。その人とエッチしたり会社の人とあちこち食べ歩きしたりして、書いてる時間がどんどん減ってる。もうあきらめるつもりなの」 「そんなものとっくにあきらめてるわよ。私はもうやがて五十なのよ。あなたは三十何歳かの、まだ結婚にも自分の才能にも成功すると信じてる女盛りの夢子さんのまま。でも人生って歳を重ねるほどに複雑になっていくの。私に夢を追いかける時間はもうほとんど残ってないのよ」 「体重が増えてるのも仕方ないことなの?」 「憎らしいこと言うね。でも十五年前だって決してそんなやせっぽちじゃなかったよね」  と言い合ってる二人だけど、私四号も三号もすらりとした美人。ぴっちりジーンズが似合って、胸はそれなりに豊かだ。そう、この体型は昔も今も私の理想なのだ。
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