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私は豪華な洋風邸宅に憧れている。昔は古くて小さな日本の田舎の家に憧れていたんだけど、そういう貧乏臭いのはもう嫌だ。ちなみに三号はそんな古民家に暮らしている。
長いアプローチを歩いて屋敷に着くと、ぐるりと回って裏庭に行った。プールの縁から少し離れたところに白いバルセロナチェアが二脚並んでいて、右のチェアに丸山課長が身体を預けていた。リゾートマンションには似合わないホワイトシャツとビジネスパンツ。手には何故かいつもの黒いカバン。ここかどこかで裸になれば筋肉隆々の細マッチョの肉体があらわれるのだけど。
私は丸山課長を見て、自分の想像力がかなり貧しくなっているのではと心配になる。でもその姿以外、思いつかないの。
私は左のチェアにどかっと腰を降ろした。課長は何も言わずに微笑んで、それからプールの左右にある篝火に目を戻した。
私もしばらく篝火の炎の揺れに目をやった。心安らぐひとときだ。さて、そろそろ来るかな?と私は東の方角に目を向けていると、
「来た、来た」
ハニーワンがよたよたと私に会いに、やってくるのが見えた。
この屋敷から東にいったところにハニワジンの家がある。ハニーワン以外に家から誰も出てこないのは、つまり私が彼らのことを忘れているからだ。
私はこの世界に棲む空想のキャラとはほとんど会話をしないし、顔を合わせることもない。どんな住人がいるのかもほとんど覚えていないのだ。そのへんが三号とは違う。
私が今、ぱっと思い出せるのはさっきの教祖様と、「還ってきた少年」に登場する二人のヤクザ者、「ネクスト」に出てくる三人の無性別者、それに「ハニワジン」に登場するハニーワンだ。
実際に私が創作して途中挫折した、作品にならなかった物語は十を超えるだろう。そのほとんどが三号時代に書いたもので、私になって書いたのは「ネクスト」と「ハニワジン」の二作。どちらも途中で物語るのをやめてしまった。
それにしても不思議だな。主人公は名前も年齢もみんな忘れてしまったのに、悪役は覚えている。教祖様なんて、私の考えられる限界ギリギリの色魔、変態性欲むきだしの男で、当時の憎たらしい女上司を逆さ吊りにして、教祖様の怒張したあれを咥えさせたりしたものだ。でも今ならそんなもの残酷でもなんでもない、恋人どうしならお楽しみのひとつだわね。
ついでに言うと「ネクスト」の無性別者の三人の女性は生きるために仕方なしに犯罪に身を染めている、悪役だけど可哀想な連中です。あ、女性だというのは、無性別者は女性から進化したからなの。それで最初のうちは社会的に受け入れられずに差別を受けて、って話だったんだけど、政治的過ぎて退屈なお話しになってしまった。
それにしても・・・うーん、ハニーワンはまだあんなところにいる。なんであんなに遅いの?足を短くし過ぎたかな。早く来い、ハニーワン。
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