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1章 その2
AM7時
カーテンを開けっ放しにして寝たらしい。朝日の強い光で目が覚めた。横幅八十センチの小さなシングルベッドを軋ませて身体を起こすと、素っ裸で寝てたのに気づいた。
向かいのアパートから見られてなかったかしら、と窓越しに外を見ると、通りをはさんだ向かいのアパートの窓にはピンクのカーテンがピッチリと引かれていた。
そう、あの部屋は三十前の女が一人で住んでいるのを思い出した。同性なら見られたとしても問題はない。私はベッドを離れて床に散らばる衣類の中からスポーツブラを探し出すと、鼻に当てて臭くないかを確かめてから、胸に当てた。
パンツは?パンツは洗濯済みのを履かないとまずいだろう。下着ケースを開けたらまだ二枚や三枚はあるはずだ。
でもその前にコーヒーが飲みたい。小さなテーブルの上にはカクテルの空缶が四、五本転がっていた。頭がボンヤリしてるのはこいつのせいだ。
私は電気ケトルに水を流し込むと、スイッチを入れた。湯が沸く間、ベッドに背中を預けて床に座り込んだ。手元にあったポリ袋を広げて、テーブルの上のお菓子の袋を片付ける。お菓子やパンの袋を整理すると、下から一冊の本が出てきた。
湯が沸いて私は立ち上がり、流しの中にあったコーヒーカップを水洗いして、インスタントコーヒーの粉と湯を入れた。
熱いのをひと口すすって、テーブルに置くとベッド脇に座り直した。まだ熱いコーヒーの代わりに本を手に取ってみる。
孤独の愉しみ方 ソロー
何年も前、タイトルに惹かれて買ったものだ。内容は忘れたけど、どんなこと書いてあったっけ?と中をパラパラめくってみる。
「努力からは知恵と純真が、怠惰からは無知と色欲が生まれる」の一文が目に留まった。
そうか、色欲は怠惰から生まれるのか。四十も後半に入ってから性欲が強くなったような気がするけど、いろんなことが面倒臭くなってきたことと関係あるのかもしれない。
でもこの身体を男の前に晒して大丈夫なの?
私は今やすっかりおばさん体型になってしまった。肌はまだツルツルだけど、このお腹!この腕のたぷたぷ!私は腐りかけのカボチャだ。でも腐りかけが好きな男も多いらしいって聞いたよ。
恥を晒していろんな男と付き合って、それを本にしてみようかな。「腐りかけが好きな男たち」なんてタイトルで、表紙はそうね、私のヌードってのはどう?もうやけっぱちだ。
ん?何で本のことなんか考えたんだろ。私は昔からノンフィクションには興味はない。私が書きたかったのはフィクション、面白い物語だ。
でもそれは昔の話だよね、と私は自分の肌に唇をつけた。今の私は腐りかけのカボチャ。
そうだ!今夜、花田鎮夫とエッチする約束だったのを思い出した。私はブラを脱ぎ捨てた。こんなブラでデートは無理、身体も洗わなくちゃ、シャワーする時間はあるかな?
私は床に散らばったバッグや衣類を跨いでバスルームに向かった。
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