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「何も持たなかった私に、あなたはたくさんのものを与えてくれました。輝きを持って世界を見、愛する喜びを教えていただきました」
オリビアの耳元にイリが囁く。吐息のくすぐったさに、オリビアは小さく笑った。
「あなたは私のためにすべてを棄ててくれたわ」
「時間が経って、あなたがまた取り戻させてくれました。私は思い残すことはありません。強いて言うなら、恐らくあなたを残して逝くことくらいでしょうか。まだ先の話ですが」
「イリ、」痩せた体を抱きしめる。「愛してるわ」
「私もです」強く抱きしめ返す。「私の大切な宝物。私のかわいいお嬢さん」
「もうお嬢さんじゃないわ」
くすくすと照れ臭そうに笑うオリビアに、そっと頬を寄せる。
「いいえ。いつまでも私にとっては小さなかわいいお嬢さんです」目尻に皺を寄せ、オリビアを見つめる。「あなたに触れても?」
「ええ、」碧い瞳を見つめ返し、頷く。「大好きよ、イリ」
オリビアの背の骨すじを、ほっそりとした腰を、髪を、脚を、ふわりとした胸を、イリは愛おしむように撫でた。深く甘い口づけを落とし、小さく声をあげるオリビアを優しく組み敷いた。豊かに溢れる蜜を掬い、ゆっくりとオリビアの中に入った。互いの形を確かめ合うように、穏やかに肌を重ねた。それはぞくぞくとする快感を伴いながら、深い魂の結びつきの儀式のようだった。果てた妻の髪を撫で、唇を寄せ、イリも小さな声をあげてオリビアの中で果てた。裸のまま抱き合い、オリビアは涙目で笑った。何度もキスをして、抱き合ったまま囁きあった。
「イリのおかげで、もう何も怖くないわ」
「…あなたは初めから、勇敢で怖いもの知らずでした」
「いいえ、そう見せていただけ」
「そうでしたか」
「たくさんの宝物をありがとう」
「私のほうこそ」
深く刻まれたイリの目尻の皺に、共に歩んできた道のりに思いを馳せた。あの美しい金色の髪を靡かせたクラウンに、一目で恋をした。自覚するのに時間がかかったが、望まぬ道を経て、今、心から待ち望んだ安寧のなかにいるのだと思った。
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