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オリビアは師の本をもとに、自分なりの薬学書をしたため始めていた。新たに作った薬や、女性の体を健やかに美しく保つための茶や薬、肌を癒すクリームについても書き記した。
それとは別に、イリと一緒に、かつての旅についても書き残していた。いつか、娘に読ませてあげたいと思いながら。
「薬師さま、最近夜になると頭痛が酷くて」
「薬師さま、子どもの疳の虫を治めてくださいませんか?」
「薬師さま、先日いただいたお薬、とても効きました」
「薬師さま、」
「薬師さま、」
賑わうマーケットの中、オリビアのもとをたくさんの人が訪れる。傍らでイリの弟子が、かつて彼がそうしたように、子どもたちに大道芸を披露していた。弟子の妻が、楽しそうにアコーディオンを弾く。
「先生、」オリビアの弟子が生薬を手に訊ねる。「腹に効く薬をと頼まれました。調合を見ていただけますか?」
「ええ、とてもいいと思うわ。そのまま出してあげて」
ぱっと顔を輝かせ、弟子は小走りに患者のもとに駆け出していった。かつての自分も、きっと同じように師に訊ね、そうして喜んで駆けて行ったに違いない。
弟子には、とにかく患者の声に耳を傾けるように伝えていた。要領を得なくても、長話になっても、じっと耳を傾けることで癒える部分も大きいのだと伝えた。弟子はその舵取りがとても上手だった。耳を傾け、笑顔を向け、そっと言葉をかけて核心を話させた。寄り添い、向き合う力に長けていた。
「そろそろ戻りましょうか」
オリビアが弟子たちに声をかける。荷台には人々からもらった野菜や肉がたくさんに詰まっていた。
「今日はかぼちゃをいただいたのね。ねぇシェイラ、これ、パイにしてもいいかしら」
声をかけられたイリの弟子の妻は顔を綻ばせた。
「まぁ、うれしい!先生、私にもお手伝いさせてくださいな」
「ええ、」オリビアも笑う。「皆でいただきましょう」
小高い丘を登り、豊かな煙の立ち上る我が家に帰る。仕事を終えたアメリが草を食み、おいしそうに水を飲む。朝干したシーツや服が、夕方の風を浴びてからりとなびいていた。
「おかえり。おや、今日もずいぶんたくさんいただいたんですね」
穏やかなイリの声に、ほっと息をつく。
「ええ、食事にしましょう。今日は皆も一緒に」
「ちょうどアンナとヨニも来ています。賑やかでいいですね」
扉の向こうではにこやかに娘夫婦が待っていた。
「腕を振るわなくっちゃ」
オリビアはにっこりと笑い、竈へと向かった。
〔完〕
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