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※ ※ ※
「またかよ!」
繁華街を歩きながら、私はキレ散らかしていた。
またしても土産を買いにいけと会社からつまみ出された。だから自分で買いに行け!
指定された舗は、件のすみれの花が飾られていた和菓子屋だった。
否応なしに思い出すのは、あの狐だ。あの後、どうしたのだろう。まぁ、今となっては私にはわからないんだけど。
徒然に思いながら、引戸をガラガラと開ける。
「ごめんくださ---、」
そこで私は声を飲んだ。
私の目はショーケースに飾られた紫色の生菓子に釘付けになってしまった。
「いらっしゃい…ああ、また来てくださったのね」
「あ、あのこれ…」
綺麗に咲くすみれの花の菓子を指して聞く。奥から出てきた女性は、ふふ、と笑って言った。
「時々、舗先にすみれの花の折り紙が置いてあるってお話ししたでしょう? この前ね、とっても綺麗に折られたすみれが置いてあったの。なんだか私まで嬉しくなっちゃって…お母さんに見せてみたの。そうしたら、お母さんが久しぶりにすみれのお菓子を作るって言ってね。それが、このお菓子です」
作り方を教えてもらったから、春になったらこのお菓子を出していこうと思うわ、と続ける女性を呆けたように見ながら、私は心の中で思った。
狐、お前の届けた落とし物はちゃんと落とし主に届いたらしいぞ。
「さあ、今日は何になさいますか?」
にっこりと笑う女性に、私は言った。
「それじゃあ…---」
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