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本当につい最近、それこそ一週間するかしないかくらい前の事だ。
麗央と何人かの男子が、ある男性タレントの噂話で盛り上がっていた。そのタレントは以前から実はゲイではないかとネットを中心に噂されていたのだが、人気女性歌手と結婚し、大きな話題となったばかりだった。
「絶対ホモだと思ってたのに違ったのかー」
「いや、わからんぞ。偽装結婚かも」
「あるいは両性愛者とかな」
どうだっていいじゃないか、君たちには関係ないのだから……と内心呆れながら聞き耳を立て続けていると、内田という縦にも横にもデカい男子が大声で、
「つーか、ホモでもバイでも、キモくてオレは無理だわ~! 男が女を好きにならねーとか欠陥あるだろ絶対!」
一緒に盛り上がっていた男子たちは笑いながら同意した。
ぼくは恐る恐る麗央を見やった。
「だよな」麗央も笑っていた。
死刑宣告でも受けたような気分だった。
こうして、残念ながら永遠の片想いが決定してしまったわけだけれど、それでもぼくは未だに諦め切れずにいるし、むしろどんどん好きになっちゃってるし、妄想も止まらないってわけだ。
「二階堂」
まあ、いずれ諦めがついて、別の人──ぼくと同じゲイで、少なくともチャンスが〇%ではない男性──を好きになれるかもしれない。
「二階堂」
ほら、初恋は実らないものだっていうし。ゲイじゃなくてもだいたいの人間は叶わない恋ってのを経験するんじゃないか──
「二階堂!」
我に返って振り向くと、麗央が教室の後ろにいた。
「どっ、どうして?」そう尋ねるぼくの声は間抜けに聞こえただろう。
「忘れ物取りに来てさ。そしたら二階堂がいたから声掛けてんのに、全然反応ないから。どうしたんだよ、一人で」
「いいや、別に……うん。何でもないよ。じゃ」
「待って」前のドアから帰ろうとしたぼくを、麗央は引き留めた。「帰宅部だよな? 途中まで帰ろうぜ」
「……何で?」ぼくの疑問は自然と口から出ていた。
「え。……いや、何でって」
そりゃあそうだろ。だってぼくたちはそれ程親しくないんだから。せいぜい物の貸し借りくらい、だろ?
「俺が二階堂と帰りたいと思ったからだよ。駄目か?」
ああ待ってくれその甘える仔犬みたいな顔はやめてくれいやほんと何だ小首を傾げるな可愛過ぎる反則だ──
「──駄目じゃないけど」
「んじゃ帰ろうぜ」
「……ああ」
「金ある? 何か喰うか飲むかしてかない? ちょっと暑いしさ」
「……ああ」
神様仏様、これは何の罰ゲームですか?
むしろ悪魔の仕業だったりするのか?
本当だったら嬉しいに決まってる。
でも麗央はぼくとは全然違う。
いや、ぼくの方が麗央と、そして世間一般と全然違うのだから。
どうか期待させないでほしい、お願いだから。
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