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「お、抹茶? 渋いなあ」 「そうかな……」  放課後の教室に一人ぽつんと残っていた二階堂を誘った俺は、一緒にソフトクリームを食べて帰る事にした。数種類のフレーバーの中から、俺はバニラとチョコレートのミックス、二階堂は抹茶を選んだ。  最近雨が多かったけど、今日は気持ちがいいくらいよく晴れていて、絶好のデ……寄り道日和だ。  二人でゆっくり歩きながら、それぞれのソフトクリームを味わう。 「うん、美味い。あの店ってケーキはイマイチなんだけど、どういうわけかソフトクリームは濃厚で、それなのに安いんだよな。二階堂は食べた事あったか?」 「いや……」  うーん、やっぱり反応が乏しいなあ。  ここに来るまでの間も、俺の方から色々話し掛けたんだけど、会話が続きにくいどころかあんまり目も合わせてくれない。  ま、その理由には察しが付いてるんだけどね。  ……よし、ちょっと意地の悪い事してみっか。 「二階堂、そっち一口くれよ」 「え」 「一口」  俺は二階堂の手首を掴んで食べかけのソフトクリームを引き寄せ、(かぶ)り付いた。うん、抹茶も美味いな。  二階堂は目をパチクリさせている。そして心なしか顔が赤い。 「俺のも食べる?」 「え」 「はい、あーん」  俺が半ば無理矢理差し出した、と言うより押し付けたバニラとチョコレートのミックスは、二階堂が顔を動かしたせいで頬に付いてしまった。 「あー、ほらほら」  俺は笑いながら二階堂の頬に手を伸ばし、クリームを指で掬うと、これ見よがしに自分の口に持ってゆき、ゆっくり舐め取った。 「た、た……高嶺!」 「ん、何?」 「あ、あああ……」  二階堂、耳まで真っ赤!  この程度でこれじゃ、もっと()()したらブッ倒れるんじゃね? 気を付けないとソフトクリーム落としそうだな。 「高嶺! な、何しとるんじゃいワレェ!!」 「いや何キャラ!?」  パニクり過ぎておかしくなった二階堂……可愛過ぎだろ。ちょびっとビビッたけど。 「あ、あのなあ君。そ、そういうのは、何かその……」 「何かその、何?」 「……何でもない」  ……俯いちゃった! え、ヤバい更に可愛い何この萌えキャラいやほんと好きだわ結婚してくれ抱いてくれ。 「なあ二階堂、下の名前で呼んでいい?」 「はっ!?」 「俺も麗央でいいからさ。えーと、二階堂って確か……っておい?」  二階堂は俺を置いて早足で歩き出していた。 「ちょ、待てって。何処行くんだー?」  二階堂は答えずどんどん進んでゆく。……照れてるって事でいいんだよな?  俺は二階堂に追い着くと、耳元で囁いた。「置いてくなよ、篤弥(あつや)」  ……っと!  抹茶ソフトクリーム、危うくアスファルトに喰わせるところだったな。  ついこの間クラスメートたちと、とある男のタレントの噂話で盛り上がった。そいつはゲイじゃないかって前々から噂されていたんだけど、女の歌手と結婚した。  クラスメートたちは偽装結婚だの何だのって言ってたんだが、そのうちの一人、内田ってゴリラが「ホモでもバイでもキモくて無理。男が女を好きにならないのは欠陥がある」とか何とか言い放った。  他の奴らは笑って同意していた。黙っていて勘付かれると厄介だったから、仕方なく俺も同じようにした。  ……あいつら、俺がゲイで、それもネコだって知ったら卒倒するかもな。  今の俺には凄く気になる奴がいる。  そいつは俺の隣の席の、そこそこ綺麗な顔してんのにあんまり笑わないし無口な真面目君。よく筆記用具を貸してくれるし、何かと親切だ。確か初めて借りたのは定規だったよな。それ以来しょっちゅうお世話になっている──まあ、実は最近はわざと忘れて借りてるんだけどな。 「高嶺」  流石にゲイじゃないよなって最初から諦めかけていたけど、最近チラチラと視線を感じるようになったし、何か借りまくっても全然嫌そうにしないから、ひょっとしたらひょっとするかも……なんて思って、今日こうして寄り道に誘ってみた。 「高嶺」  何かさ、脈ありな気がするんだけど……どうだろう?  単なる俺の勘違い、思い込みだったら。 「おい、高嶺」  amore() non() corrisposto()だったら。   「麗央!」    ……んんっ!? 「どうしたんだ……?」  二階堂が心配そうな顔で俺を覗き込んでいる。おっといけない、せっかくベンチに座って二人きりでたわいない会話を楽しんでいたのに。 「いや何でもない。悪い」  ……というか、今さ。 「俺の事、名前で呼んだ?」 「……忘れ物多過ぎだよ(きみ)」 「え、スルー? 今さ、俺の事れ──」 「そろそろ帰ろうか」 「いや待ておい誤魔化すなって!」  俺を無視して立ち上がる二階堂は、さっきよりももっと顔が真っ赤で、そのうち沸騰して湯気が出てきそうだった。  神様仏様、これはご褒美でいいわけ?  期待しちゃっていいわけ? 「もうちょいその辺ブラブラしねえ? 篤弥」  「……いいよ」  手を繋いだら嫌がるだろうか。試してみる勇気がない。参ったな、からかうのは簡単なのにな。  まあ、焦らず少しずつ試していこう。    俺たちは並んでゆっくり歩き出した。
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