鍵を拾った。そして、複製した。

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 夫の愛人宅の合鍵をハンドバッグに忍ばせてから幾年月か経ったある日。私は思うところがあり、その鍵の在処を探っていた。 (あらあら、いけない)  鍵はすぐに見つかったけれど、どこかで引っ掛かっているようだ。バッグのポケットから取り出そうとしても、なかなか出てこない。  無理に引き出そうとして、誤ってバッグの中身を落としてしまった。  足許に落ちたのは茶封筒。中には写真が数枚入っている。  どの写真もパッと見は黒っぽく、何が写っているのかよくわからない。だが、目を凝らして見ると、夜間に撮影されたらしいそれらの写真にはどれも、ある男ともう一人、見知らぬものが写っていた。  日没後の山林にて、大穴を掘る男。もう一人は男の傍らで横たわっている。  如何に写真が見難かろうと、写し出されたその人物に見覚えがないわけがない。  ――少し見難いですが、わかりますよね。こちらの男性は、貴女のご主人です。  昼前だというのに、閑古鳥の鳴く喫茶店。  その女――夫の愛人は、人目を避けるように店の一番奥の席にいた。  叶うことならば顔も見たくない、同じ空間にいたくもなかったその女は、私が席に着くなり簡単な挨拶と自己紹介――流石に、愛人と名乗るほどのお馬鹿さんではなかった――を一方的に述べ、こちらに写真を差し出す。  男受けの良さそうな……|お花畑の住人と形容したくなるような愛らしい《頭の軽そうな》顔には、かまととぶった笑みを浮かべている。だが、その目つきは忌々しいほどに挑発的だ。  ああ、もう。この女の容姿、声、口調、態度、表情に至るすべてが鼻に付く。  ――用意するのに苦労した、とびきりの秘密です。ねえ、奥様、この写真、買い取って頂けますよね?  長年、夫を誑かしてきたこの女は、どこまで厚顔でいやらしいのだろう。  私は動揺と業腹をひたすらに押し殺し、努めて冷静に、微笑みすら浮かべて尋ねた。  ――それで? ご入用は如何程かしら。
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