拾 -樺沢真紀子

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 与えられるがままに手作り服を着ていた時代と比べ、どんな服を着れば悪目立ちしないかを気にし始めたことで、無頓着だったファッションにも興味が芽生えた。  中学生になってからは休日にショッピングモールへ出かけては、お小遣いで洋服を買い揃えるようになった。  その延長線上で服飾の専門学校に進学したのだから、母の洋裁に悩まされた末に自分も同じ分野に進んだことになる。  その因果を考えるたび、真紀子はあまり好きじゃなかった母の手作り服も、お洒落な学生が集まる専門学校とは正反対の昭和風が恥ずかしいと思っていたこの洋品店も、自分の原点なのかもしれないという気持ちになる。  自分が縫い物をするようになって、母が派手な柄物ばかり選んで服を作っていた気持ちがわかるようにもなった。  洋服づくりはとにかく膨大な時間がかかる。  製作中に目を楽しませる柄の布地は、単調なミシン掛けが続きがちな裁縫の時間をわずかにでも彩ってくれた。  生前には理解できなかった母のそんな気分が反映されたのが、この雑多な洋品店ともいえる。  流行をまるで無視した大柄の幾何学模様や、原色どうしがまだらに溶け合うようなプリント柄。  こんな服だれが買うのかと、若き日には馬鹿にさえしていた衣類が、少しほほえましく今の真紀子の眼には映った。
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