落 -宮原祐介

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 肉屋はこのあたりだっただろうか、と思ったところで、地面を見ていた顔をふと上げると、奇妙な物体が祐介の眼に入り込んできた。  それはマネキンだった。  商店街の中央よりも少し()れた路上に、ずっしりと重そうなマネキンが立っている。  おかしなことに、そのマネキンは派手に着飾っていた。  山吹色のケーブル編みのカーディガンに、頭には明るい紫色の毛糸帽子まで載せている。  そして、首元には、美咲がロンドンで選んでくれたネイビーとイエローのネクタイが無造作に巻きつけられていた。  あっと目が釘付けになった祐介の後ろで、店のガラス戸が開いて人が出てくる音がした。  思わず振り返ると、シャッター尽くしの中で、昔ながらの洋品店が一軒だけ灯りを放っていて、その中から同年代ぐらいの女性が出てきたところだった。 『少しの間、留守にします』と書かれた札を店の前に吊るして、商店街を進もうとした女性店主は、祐介に気が付いた。 「あら、もしかしてその落としもののどれかに、心当たりあります?  そのマネキンに掛けられているのは全部、この商店街で拾われた落としものなんですよ。 最初に始めたのは私なんですけど、その後も拾った人が、こうやってマネキンに載せておけば目立つからって置いていくんです」
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