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「何も信じられない。あいつの名前を波瑠から聞きたくもない」
優磨くんは缶を握り潰すとごみ箱に乱暴に捨てた。
「お願い、聞いて。ちゃんと話すから……」
「聞きたくないんだって。これ以上波瑠を嫌いになりたくない」
体まで震えてきた。何を言っても優磨くんに信じてもらえない。私が裏切ったと決めつけてしまっている。
「優磨くんこそ……書斎にあった写真は何?」
「写真?」
「お見合い写真みたいだった。婚約者がいるんじゃないの? 優磨くんだって私に内緒でそんな話をしていたってことでしょ?」
そうじゃありませんようにと願ったのに、優磨くんの口からは「そうだよ。婚約の話は数ヶ月前からあった」と言われた。
「波瑠が大事だったから断ってた。でももう一度検討する必要があるかも」
「っ……」
「波瑠と将来を考えてたから、政略結婚させられないよう仕事で力をつけて、親に波瑠を認めさせるつもりだった。でもそれもどうでもいい……」
このタイミングで聞きたくはなかった。自分から聞いたのに優磨くんの婚約者の話がショックだ。
「最初から決められた相手なら俺を傷つけない」
息が苦しくなる。優磨くんは私よりも城藤の名を目当てにしている人の方がいいというのか。
「私たち……もう無理なの?」
「俺は無理……波瑠の言葉を信じられない」
それほどに優磨くんは不貞行為が大嫌い。誤解させた私も悪いけれど、何も信じられなくなるほどに優磨くんのトラウマは大きい。
「もう行くよ。下で泉さん待たせてるから」
「行かないで! ちゃんと話を聞いて!」
キャリーケースを引いて玄関に向かおうとする優磨くんの腕を思わず掴んだ。
「放せ」
思いっきり手を振り払われた。
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