3459人が本棚に入れています
本棚に追加
「他の男に抱かれた汚い体で触らないで」
あまりに冷たい言葉と態度に目の前が真っ白になる。
「あ……ちが……」
声が出ない。また呼吸がうまくできない。
「さようなら安西さん」
「ゆ……」
引き留めようとしても、また優磨くんに拒絶されたらと思うと怖くて伸ばした手を下ろしてしまう。
玄関のドアから出て行く優磨くんの姿が見えなくなった瞬間、床に座り込んで泣いた。涙がポロポロと頬を伝い、落ちてパジャマを濡らす。
『これ以上波瑠を嫌いになりたくない』って……もう嫌いになってるってことじゃない……。
築いた信頼が崩れるのは一瞬。激高した優磨くんには理由すらも聞いてもらえなかった。
裏切ったと思われたら何もかも拒絶されてしまう。
離れないって言ったのに、一方的に別れを告げられた。優磨くんの方こそ嘘つきじゃないか。
広い部屋に残されても私の居場所はここじゃない。優磨くんがいないのなら私もここにはいられない。
勤務先の店の近くにマンスリーマンションを契約した。
最低限の家具家電が付いたすぐにでも住める環境はありがたかった。減給処分を受けた直後もこうすればよかったのだ。あの時は正常な判断ができずにとにかくお金をかけない生活をすることばかり考えていたけど、今はとても冷静になれる。
優磨くんに買ってもらった服や靴は全てクローゼットに残した。お金目当てだと言われてしまったし、貰ったものは持っていけない。
私の荷物は片手で持てる大きさのバッグに全て入ってしまった。残りは宅急便で送るけれど、それも段ボール1箱だ。
最後にテーブルの上にプレゼントされた腕時計を置いた。この素敵な時計はもう私には相応しくない。
『部屋を出ました。今までお世話になりました。鍵は後日郵送します。』
そうLINEを送った。案の定既読にはならないのだけれど。
最後に部屋を見回して「ありがとうございました」と呟いてマンションを後にする。
優磨くんとの短い生活は幸せだった。
最初のコメントを投稿しよう!