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優磨くんの方が下田くんの何倍も実績がある。けれど社員は優磨くんを腫れ物に触るように接する。
財閥として名高い城藤グループ会社の御曹司である城藤優磨の機嫌を損ねないように、大変な仕事を会社は優磨くんに担当させることはない。新規オープンの店舗担当なんて残業も休日出勤も当たり前の仕事をさせないのだ。実績があっても城藤の名前を使って取ってきた仕事なのではと思っている者もいる。
優磨くん本人も自分がどう思われているか自覚しているから仕事で主張してくることは少ない。
けれど今回恋人の下田くんが自分の仕事のように喜んでいることに私は納得できない。優磨くんが時間をかけて交渉した結果の今日があるのに。それは自分の名前を売ったのではなく熱心に会社と商品を売り込んだからだ。本来この場の主役であるはずの優磨くんが控えめなのはもったいないと思う。
「俺の努力は安西さんが知っててくれればいいよ」
それでいいの? と優磨くんを見るとそれ以上話す気はないように新しい缶ビールを開けた。
「ではここで担当の下田からも一言!」
誰かが声を張り上げると下田くんは店の中心から大きな声を出した。
「皆様今日までありがとうございました! 今回俺もたくさん成長させていただきました。今後ともよろしくお願いします!」
当たり障りのない挨拶にも社員から拍手が起こる。
まあ、下田くんもここまで頑張ったし、私も負けないよう頑張ろう。
「奥さんも喜んでるぞ!」
下田くんに向けられただろう誰かの大声に私の体は固まった。
今、誰に何を言った?
一瞬の沈黙のあと「あざーす!」と下田くんが困ったように笑って返事をした。
え? 奥さんって何?
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