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「優磨くん?」
「追いかけなきゃ。下田と話さないと」
優磨くんに手を引かれ店を出ると既に閉館した商業ビルには誰もいない。
通路を曲がった先の男子トイレから水を流す音がしている。
下田くんが出てくるまで待ち構えるように立った優磨くんは怖い顔をしている。私は何が何だか気持ちの整理がつかなくて、思わず握られたままの優磨くんの手から自分の手を引っ込めた。
「あ、ごめん」
優磨くんは私が嫌がっていると思ったのか申し訳なさそうに笑うけれど私に笑い返す余裕はなかった。
トイレから出てきた下田くんは私たちを見ると怯えた顔をする。髪の毛はびちゃびちゃで、蛇口から直接水を被り頭を洗ったのだろう。スーツは肩まで液体が染みている。
「お、おい優磨、今の何だよ……驚くだろ……」
「驚くのはこっちだよ。いつ結婚したの?」
「それは……」
下田くんは私の顔を不安そうに見る。
「ごめん波瑠……俺結婚した……」
「何それ? どういうこと? 誰と? 急すぎるでしょ! 私たち付き合ってたよね?」
下田くんの口から結婚と聞いて一気に言葉が溢れる。
「言おうと思ってたんだ……本当に……」
「結婚したって信じられない……どうして?」
向かい合った私は目を合わせない下田くんになるべく冷静に問い詰める。
「あの……他にも女がいて……結婚した」
同じ内容を繰り返し私に呟く。
「それってどういうこと? 私以外の女の人とも付き合ってて、その人と結婚したってこと?」
下田くんは迷う様にゆっくりと頷く。情けない姿の恋人に私は泣きそうになる。
「波瑠ごめん……その子のお腹に俺の子供がいる……」
衝撃の言葉に頭が真っ白になる。
「え……ちょっと待って……それってどういうこと? 私と付き合っててどうして他の人と子供ができるの? ねえ!」
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