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「ごめん……ずっと言えなかった……」
急速に目が霞む。鼻の奥がツンと痛んだ。
「最低……」
頬を涙が伝う。
「いつっ……いつから?」
「去年から……」
「うそ……」
もう何ヶ月も下田くんは私を裏切っていた。去年からなんて全然気づかなかった。だってその間も私は下田くんとデートしてお互いの家にも泊って、体を重ねてきたのに。
同じことを下田くんは別の女ともしていたということ? その事実をこんな時に知って苦しい。
「ごめん……波瑠のことを大事に思ってるんだ……でもまさか向こうが妊娠するなんて……」
消え入りそうなほど小さい声で呟く。その態度に私だってビールを持っていたらかけてしまいたいと思っただろう。
「もう波瑠の恋人じゃいられない……」
下田くんの口からはっきりと言葉が出た。
「当たり前だよ……それって私のセリフ……」
言葉を振り絞ると足に力が入らなくなり、よろけて壁に手をついた。
「大丈夫?」
優磨くんが私の肩に手を添えて顔を覗き込む。心配そうなその言葉に返事をすることは今はできそうにない。
「下田、最低だな」
今まで黙っていた優磨くんが下田くんに言い放つ。
「はあ? つーか優磨に関係あんの? ビールかけやがって、最低なのはお前だろ」
「浮気して妊娠させるクソ野郎に言われたくないね」
綺麗な顔の優磨くんは下田くんを睨みつける。整った顔だからこそ迫力がある。下田くんの顔も負けないくらい怒りで歪む。
「財閥のお坊ちゃんに俺の何が分かるんだよ!」
「クソ野郎の気持ちは分かんないね。あ、スーツは弁償するよ。下田も知ってる通り俺んち金持ちだからスーツなんていくらでも買ってあげるよ」
この言葉に下田くんは完全にキレた。
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