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「お前っ! いい気になるなよ!」
下田くんは私の肩から優磨くんの手を払いのけると胸ぐらをつかんだ。
「やめて!」
私は睨み合う二人を止めようと必死に声を出した。けれど下田くんは優磨くんから離れようとせず、優磨くんも視線を下田くんから逸らさない。
「優磨に関係ねーだろ! 俺と波瑠の問題に口を出してくんじゃねーよ!」
「俺がどう思ってたか下田は気づいてるだろ? 安西さんを大事にしてないことに怒るなって言えるの?」
下田くんの目が泳ぐ。
「手を放せよ。それとも、城藤財閥の俺を殴る? 会社にバレたらまずいんじゃない?」
優磨くんの低い声に下田くんはたじろいだ。財閥の御曹司を殴る勇気が下田くんにはないのだと顔を見れば分かる。
「クソ野郎な上に度胸もないのか。俺が下田を殴りたくなる前にさっさと消えろよ」
顔を歪めたまま優磨くんの胸から手を放した下田くんは壁に寄りかかる私に目を向ける。
「波瑠ごめん……落ち着いたら説明するから……ちゃんと、二人きりで」
そう言うと下田くんは最後まで優磨くんを睨みつけながら店まで歩いて戻って行った。
説明するって? 今以上の何を説明できるって言うの?
「うぅ……」
涙が止まらなくなり足の力が抜けた私はずるずると床に崩れ落ちる。
「安西さん……」
優磨くんが心配そうに私の前に屈む。
「うぅ……」
4年も下田くんと付き合った。彼の明るくて前向きなところに入社してから惹かれていた。なのにこんな形で裏切られるなんて……。
ボロボロと泣く私の頭に優磨くんの手が載る。そのまま何回か撫でると私の横に来て壁を背にして座った。静かに泣く私に、何も言わずそばにいてくれた。
遠くで人の声がして我に返る。祝賀会が終わったようで社員が店の外に出てきた音が聞こえる。このままここにいると変に思われる。
「行けそう?」
優磨くんが心配そうに私を見ている。
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