第三話 恋にのぼせて頭パーン

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 さてはて。  あの問題発言から数日後。  なにを思ったか〝遊園地ダブルデート〟なるものにズーズィが誘ったならば、それはもう決定事項と同じである。  休みを合わせて、九蔵、ニューイ、澄央はあれよあれよと遊園地へ出かける運びとなった。  いやもうなにも合っていない。  なに一つ合っていない  誰一人付き合っていないのにダブルデートってなんだ。誰がデートしているんだ。これじゃあただの遠足じゃないか。  開幕からズキズキと頭の痛い九蔵だが、ニューイも澄央もズーズィの計画に文句を言わなかった。  むしろなにで丸め込まれたのか、二人とも機嫌のいいオーラを撒き散らしている。  いつの間にか澄央ともメル友になっていたコミュ力オバケのズーズィにかかればこんなものだ。ああ無常。  インドア派を自負する自分が、まさか遊園地ダブルデートなるものをすることになるとは。  思わなかったが──当日の朝。 「…………」  早起きをした九蔵は、せっせと四人分のお弁当を作っているのであった。  ……いやもう、なにも言うまい。  ズーズィが言い出しっぺで、怠惰を極めている澄央がもの欲しげに九蔵を見つめた結果だ。  ニューイは「人間の料理はたいへんなのだぞ?」と九蔵を庇おうとしたが、澄央に「卵焼きをアホほど入れてもらうス」と言われて黙った。完敗か。  結果九蔵は、無言のままで重箱をおかずとおにぎりで埋め続けている。  まぁ、そう悪いとは思っていないが。  もしお弁当を作らなければリアル社長だったズーズィは園内の割高な食事を食べまくるだろうし、澄央は購入を面倒がってなにも食べない。  ニューイは言わずもがな。  アシストしなければろくに食べ物を買えないだろう。  それならば材料費は手間賃込みで多めに貰っているので、作った方が平和だと思う。持ち込みもオーケーだそうだ。  そう考えながら、九蔵はジュウゥゥ、といい音を出す玉子焼きを巻き巻きし、まな板の上へポンと転がす。 『これっくらいの。おべんとばっこに』 「…………」 『おーにぎーりおーにぎーりちょいとつーめて』  そんな九蔵の脳内には、部屋から漏れるご機嫌な歌声がエンドレスリピートでフォンフォンと届き続けていた。 『きざーみしょうがーにごーましーおふって』 「…………」 『たーまごっさん』 「…………」 『たーまごっさん』 「…………」 『たーまごっさん』  間違えた。  エンドレスたまごさんリピートだった。 「今のところおにぎりと玉子焼きしか入ってねー俺の推し兼想い悪魔の弁当箱……アホかわい過ぎるでしょうよ……」  玉子焼きが冷めるまでアスパラベーコン串を焼き、焼きを待つ間にウィンナーをタコさんカニさんに切る九蔵は、ジト目で虚空を睨んだ。  昨夜は寝つきが悪かったほど、ニューイは今日を楽しみにしていた。  お弁当のうたを教えてやってから、今朝はニコニコと小さな花が飛ぶ調子で歌っている。  嬉しすぎて悪魔化しているニューイは、時にフワフワと頭蓋骨を飛ばしつつ、九蔵と自分の二人分の荷物の準備をしているのだ。
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