第三話 恋にのぼせて頭パーン

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『むふふ。九蔵が暑いといけないから、この小さきセンプウキを入れねば。タオルは必要かな? 三つほど入れよう! むむっ、クリコのキャラメルについていた小さき汽車も連れていくべきだね……九蔵が退屈な時、転がして遊ぶのだよ』  歌を歌いながら独り言を言い、荷造りをする翼、尻尾、ツノありの骸骨悪魔。  問題ない。かわいい。むしろ全然抱かれたい。  実際は無理だったのだが、言うだけならタダなので言わせてほしい。 「……幼児かわいいと化す悪魔様と、エッチなことがしたいですー……」  不埒全開で呟く。  これだけかわいがっていても、抱きたいではなく抱かれたいなのがミソだ。抱いてくれと言われればやぶさかでもないが。  具体的には、自分とエッチなことをして雄になる悪魔様にギャップ萌えしたい。 「壁ドンとか床ドンとか、王道で使い古されたやつをあえてやられてーな……プレイ的にはこう、今夜は寝かさない的な宣言をされて、着衣から脱がしあいとか夢がある……うひ……」 『九蔵』 「っ!?」  童貞オタクの気質としてホワンホワンと妄想に浸っていると、不意に角あり頭蓋骨のドアップが現れた。  なぜここにいる。  そしてなぜ頭蓋骨単騎なんだ。  体はどうした。というかその頭蓋骨は分離可能だったのか。いよいよホラーだぞ。 「ニューイさん、俺さんを驚かせるのは控えなさい」 『む、どうして驚くんだい?』 「角の生えた頭蓋骨がソロで飛んできたらそら誰だって驚くわバカタレ」 『むっ? しかし頭蓋骨だって体の上に乗っていることに飽きる時もあるだろう? たまには飛んでみたりしたくなるものである』 「よーしニューイ。さてはオメー浮かれてんな?」 『いかにも!』  拝啓どこぞの誰かさん。  これが俺の好きな悪魔です。  パンパカパーン! と晴れやかなガヤが聞こえそうなほどご機嫌に浮かんでいるニューイの頭を前に、九蔵の目は死んでいる。  体はどうしたのか聞くと、『遊園地に持っていくお気に入りの本をチョイスしているよ』と返された。もう好きにしてくれ。 「んで? 時間はまだあるだろ。なにしにきたんだ?」 『むふふ。あのね、九蔵。私はお弁当の進捗を確認しに来たのだよ。ちゃんと、ほんの少し見たらすぐに戻るぞっ』  ニューイはキラキラと眼窩の中身をダイヤモンドバリに輝かせて答えた。  おそらく気にしているのはお弁当の進捗というか、玉子の進捗だろう。  九蔵の次に玉子が好きだと豪語するニューイの考えは把握済みだ。  恋の甘さと苦さを理解してニューイの過去を知ってから、こういうのんびりとした時間が尊いものだと九蔵は思う。 「ったく……仕方ないから、頭だけならキッチンにいてもいーよ」 『! い、いいのかいっ?』 「うん。ほら、重箱開けてあるから見てみ」 『〜〜〜〜っ!』  焼き上げたアスパラベーコン串を皿にあけてウインナーを焼きながら笑うと、ニューイはポッポと熱の帯びた湯気を出して宙を踊った。 『あぁ、九蔵っ……私は最近キミが……いや、その、なんでもないのだ。……ふふふ……』  うむ。嬉しそうだ。  謎に言い淀んでいたが、とにかくかなり嬉しそうだ。  そんなにお弁当の中身が見たかったのだろうか。なんとも微笑ましい。
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