第三話 恋にのぼせて頭パーン

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(くっそー……っ基本的に距離が近いんだよー……ニューイは俺とくっついて嬉しいとしか思わねぇから、俺の恥ずかしさなんか知りやしねーんだ……っ)  九蔵は全力で素知らぬ顔を装いながら、心臓をバクバクと鼓動させて不意打ちのピト、に耐える。 「ニューイさん、少し離れる気はありませんか」 「…………えと、頂上のラスボスを倒さないと、永遠にさ迷うのである」 「ニューイさん、おそろしいことを笑顔で言わないでください」 「あう、く、九蔵は私が守るから絶対に安全なのだよっ。過去に何度も一人で遊びに来てクリアしたので、問題ないのだ!」 「わかった。好きにしな」  なぜかくっついて離れないニューイを離そうとしたが、胸を張って言われたことが切ないので許すことにした。  他の客とニアピンしない仕様のぼっち遊園地を、一人で何度もエンジョイ。 (お前ってやつは、プロのぼっちか……!) 「ムフフ……今日はズーズィも真木茄 澄央もいる。なにより九蔵がいるので、私は誰にも負ける気がしないのだよ」 「んッ、……さいですか」  ニューイは頬をポコポコと上気させて喜び、九蔵にムギュッと抱きついた。  もちろん心の中の九蔵は悲鳴をあげたとも。惚れた男を抱きつかせたまま心臓が一日もつかが不安だ。ああ逞しい胸板よ。 「ねーねー! ボクとナッスン、クーにゃんとニュっちでどっちが先にラスボス倒すかバトルしね?」 「バトルかい?」 「あー……遠慮します」  無言で頬を染めて抱きつかれていると、お騒がせ悪魔ことズーズィがやけににこやかに手を上げて提案した。  小首を傾げるニューイに対し、入る前から嫌な予感しかしていない九蔵は丁寧にノーと告げる。まだ死にたくない。 「ココさん。ズーズィが言うに、この扉はどれを選んでも最終的にはラスボスの部屋にたどり着くらしいス」 「へぇ」 「どうせなら別ルートで行くスよ」  すると物珍しそうに中を覗いていたはずの澄央が、ズーズィの提案に乗った。  九蔵の手をガシッ! と握り、親指を立てている。……ふむ。  チラリとズーズィに視線をやると、彼もまた親指を立てている。ふむふむ。  わかっていながら自分に後ろから抱きついているニューイを首をひねって伺うと、なにも知らない無垢な笑顔が返ってきた。眩しい。なるほど。 「……ニューイ、バトルすんのとしねーのどっちがいいんだ?」 「九蔵の好きなほうがしたいのだ」 「俺抜きでお願いします」 「勝利のたまご焼きはさぞ美味しいと思うのである」 「よろしい。ならば戦争(クリーク)だ」  ──さぁ、二人っきりにしてやるから存分にイチャイチャするがよい!  少しお節介で面白おかしく掻き回すが概ね愉快で素敵な友人たちのアシスト。  イチルから奪えなくとも、片想いの相手との桃色な思い出はいくらでも欲しい。  煩悩に満ちた九蔵は、ニューイとコンビを組んで似非キャッスルをクリアすることに決めたのであった。  ちなみにお弁当は重箱二つ分作ってきたので、一つとサンドイッチを澄央に持たせておいた。レジャーシートにおしぼり、水筒、ハンカチ鼻かみと、一式である。 「お母さん」 「ママン」 「やめなさい」 「パパンがしょげてんよ?」 「あぁもう、たまご焼きはこっちにも入ってるからしょげねーのっ」 「母上……!」 「お前もか」
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