第三話 恋にのぼせて頭パーン

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『そんなぁ……っ!』  ニューイは絶望した。  プロポーズがしたかった。  今の生活に満足していたが、それは永遠の時間ではないことを、優しいお弁当を食べて思い出したのだ。  だからどうしてもつなぎ止めたい。  別に、なにも複雑なことは考えていなかった。それ以上でもそれ以下でもない。本当だ。自分はバカでポンコツだから、そうに決まっている。  いつも通り、ただ心のままに意地汚くしがみついて全力で彼を愛したいだけだ。イチルの魂を持つ彼のことを。  それなのにうまくいかなくて、泣きそうだった。いいや、泣いていた。  ダダをこねる子どもだ。情けない。  カッコイイと思われたいのに。  そうしてついにゲームオーバー。  コントローラーを奪った九蔵は、ニューイを追い越して画面の前に立った。 『く、九蔵っ、嫌なのだよ……!』  ニューイはカラコロと骸骨を鳴らして、九蔵の背中にガッシリとしがみつく。 『あと一回だけっ。一回だけ頑張るのだっ。一回だけでいいから……っ』  クゥンクゥンと子犬のように甘えた声を出して九蔵にオネダリをする。  抱きしめた体は骨ばっていた。  九蔵は鶏ガラのようだ。心配に思う。お弁当だってあまり食べていなかった。ニューイは密やかにいつも九蔵を見つめている。 「ダメだって言ったろ?」 『九蔵……っ』 「ダーメ。──だから、ほら」 『うっ?』  鶏ガラの九蔵は振り返らずに、ニューイの手を取ってコントローラーを握らせた。  九蔵の大きくも細い手がその上に添えられる。ニューイは頭がこんがらがった。 『く、九蔵?』 「まぁ、見ててみ」 『えっ? えっ?』  こんがらがっているうちに、九蔵はあっけらかんとサクサク配管工を操作する。  その動きが、なんというかやばい。全然理解できない指さばきだ。  具体的に例えると、ニューイ配管工が三歳児なら九蔵配管工は陸上選手である。 『ええ、ええええ』 「ほいほい」 『ええええええ……っ』 「はい、クリア」  ニューイの指を使ってヒョイヒョイと大亀の攻撃を避け、軽くひねってボタンをポチリ。あっけなく落下する大亀。輝かしいクリア画面。  余裕の九蔵に、信じられないとばかりに目を見開いて九蔵と画面を二度見するニューイ。  あまりの驚きにボフン! と逆に姿が戻ってしまった。  有り得ない。自分の九十八回のチャレンジはなんだったのだ。 「なっななっ、なぜクリアできたのだ……!?」 「? そりゃ見てたからな」 「摩訶不思議だ……! おかしい……! ゲーマーというものは怖い……! 指さばきがなにかおかしい……!」 「普通です。人を変人扱いすんな」  機械オンチのニューイには、ゲームばかりしている九蔵の特殊能力が理解できなかった。  元々のゲームよりかなり難しくなっているステージを見ていただけで一発クリアなんて、人間じゃない。もうそういうコンピューターだ。  ニューイは信じられないものを見る目で九蔵を見つめるが、九蔵は「このくらい誰でもできるでしょーよ」と逆に不思議がった。  誰でもできるわけない。九蔵の自尊心と自信はなかなか低めである。  自分がちょこちょこ普通よりできる子だという自覚がないのは困ったものだと、ニューイはガックリと項垂れた。  なにはともあれ、クリアはクリア。  画面の向こうにあった出口がゴゴゴゴゴと音を立てて開いた。
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