第三話 恋にのぼせて頭パーン

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「約束したのに……っイチルは私だけを一番に愛し、私はイチルだけを一番に愛すると……っイチルは守ってくれたのに……っ」  ズーズィは言葉を失うが、ニューイは構わず深くうなだれた情けない姿でベソベソとみっともなく泣き続ける。  眉を下げ、とめどない涙を流しながらざらついた声で懺悔する。  同じだと思っていたからしがみついたのに、イチルと九蔵が違う人間だと理解したなら、自分の気持ちを絶対に認めるわけにはいかない。  別人なら浮気だ。不貞行為だ。心変わりだ。酷い有様、ご愁傷さま。  約束を違ってはいけない。  恋を、してはいけない。  愛した相手に約束を破られたら、自分を愛する人が別の人を愛したら、イチルはとても寂しい。  イチルの気持ちを思うと、ニューイは別人の九蔵を一番にはできない。  ──忘れられるのは、寂しいよ……イチルが寂しいなんて、私は嫌だ……!  人間は忘れる。ならば、悪魔の自分はイチルだけが永遠に恋しい存在であるべきだ。  彼女がそうしたように。 「なのに、個々残 九蔵をひとりじめしたいと願う私は……なんなのだ……っ」  ニューイは、恋心というものが、愛する人を失った時に枯れてしまわないことを、酷く恨めしく思った。  愛しいあの子との約束を守るため転生したイチルの魂を持つ九蔵を発見した時、にべもなく愛を告げたはず。  だがしかし、同じじゃない。  九蔵はイチルと、同じじゃない。  では、惹かれるはずがない。はずがないのに、この感情はなんだ。  よそ見をされて拗ねた。  盗られそうになって怒った。  イチルだから? 違う。  不快だった。ただ不快だっただけだ。  ではなぜ澄央に、ズーズィに、機械に、無機物にすら嫉妬して、一分一秒も離れていたくないと鼓動の数だけ渇望する?  丸くなる気持ちや、男を誘いたくなるのかまで、九蔵の全てが知りたくなったのは?  いやらしい想いを抱いていると必要以上にバレたくなくて、嘘をついてまで必死に否定した理由は?  なぜ──プロポーズをした? 「〝九蔵と(・・・)食べるお弁当の時間が永遠に終わらなければいいのに〟と思って、私は、私は九蔵が……っぁあ……っ」  イチルの魂のためじゃない。  プロポーズのリベンジは。  二度と愛する人を失いたくなくて……ここにいるただの九蔵を、自分のそばに繋ぎ止めたかっただけ。  俯くニューイは、ついに姿が保てずに悪魔の姿へと戻ってしまった。  もう心がたくさんだった。  押し寄せる感情を処理できない。約束を守らねばならないのに、九蔵を手放そうとすると、涙が止まらない有様になる。  嫌だ、嫌だ。九蔵と離れたくない。さよならなんて嫌だ。愛している。愛している。──愛している!  ──どんな手を使ってもキミを手に入れたい! 私を愛さなくていい! 生きていてくれさえいればいい! 私の隣でずっとずっとずっとずぅっとただ笑顔で幸せを感じていてくれれば、なにも望まない!  ──キミを失うことを想像するだけで、私は気が狂ってどうにかなりそうだ……! 『本当は、お別れなんて嫌だ……っ忘れるのも、離れるのも、すごくすごく痛くて辛い……っ人を大切にすることは、とても難しくて、とても涙が出る……っ』  骨の体が崩壊しないように自分の頭蓋骨を胸に抱いて、翼の中に閉じこもって泣きじゃくる。 『幸せになりたい……っどちらかを諦めなければ幸せになれないのに、どちらかを傷つけると、私は幸せに生きられない……っ』  初めて愛した人を亡くした思い出として約束を捨てるか、今愛している人の恋を踏みにじり消えるか。  過去を選んでキッパリ別れを告げると決めた今も、ニューイは心の奥底で九蔵を諦められずに涙が止まらない。 「……わかった。じゃ、ボクがクーにゃん殺してあげる」 『!?』  そんなニューイに、黙ってニューイの話を聞き続けていたズーズィが、突然とんでもないことを言った。
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