第三話 恋にのぼせて頭パーン

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「なんて……キミを泣かせた私には、言えたことじゃないのだがな……」  うつ伏せに丸くなった九蔵をベッドに押し付けるよう、力強く抱きしめる腕。  身動きしようにも逃れられず、振り向くこともできなかった。ただ、振り向かなくても正体は明白だ。 「ニュ、イ」 「うん。帰ってきた」 「ど、どうして……」 「九蔵に、話があるんだ」 「はっ……?」 「キミをたくさん苦しめてごめんよ……私が臆病者のクソ悪魔なせいでなにも言えず、キミをずいぶん不安にさせて、キミの心を踏みにじって、本当にすまなかった……」  真摯に謝り首筋に顔を埋めるニューイ。  ほんの微かに、グス、と鼻を鳴らす。 (な……泣いて……っ)  九蔵はビクッ、と身を硬直させた。  ニューイが泣いている。  よく泣くニューイだが、これは弾みでこぼれたものではなく本気だ。  まるで泣くことが罪だとして隠蔽しようとしているような、静かな泣き方。しがみつく腕が微かに震えている。 「私の話を、聞いてほしい……」 「な……泣くなよ、ニューイ……話は聞くから、泣かねーで……」 「酷いことをしておいて虫のいい話だと自覚があるが……キミに話すこと、謝ることがたくさんあるのだ……」 「ちょっと、ちょっと待って……」  九蔵の頭は混乱の嵐に襲われた。  理由はわからないが嫌になって消えてしまったのでは? それとも連絡が遅くなっただけで、トラブルに巻き込まれていた?  ならなぜ、痛ましく泣いているのか。 「頼むよ……俺、泣いてねーから、さ……お前のせいなんかじゃねーんだ。本当に、お前が泣くようなことなんかなにも……」 「泣いていないよ……キミを前にして泣く権利なんて、私にはないのだ……」 「でも、お前……」 「一人で泣かせて、すまなかった」  混乱を極めた九蔵は、どうにかニューイの涙を止めようとしてみた。  しかしニューイは嗚咽をこらえて否定する。九蔵の頭をなでてグリグリとすりつき、冷たい体を温めようとする。  まるで九蔵の涙が一大事かのように、ニューイは九蔵を温める。  喉奥がヒクン、と震える。  そんなことを言われると、もう泣いていないのに……九蔵は、ガラスの虚勢が壊れてしまいそうになった。 「俺だって、泣いてねぇよ……」 「そうかい。でも、泣いてもいいのだよ」 「バカ、よくないだろ……」 「いいのだ。泣き虫の正しい鳴き方は、一人で泣かないこと。だから……九蔵のそばに、私はいるよ」 「ぁ……そ、っ……」  そばに、いると。  小さな言葉で涙が溢れて、シーツがどんどん湿っていった。  それだけで精一杯なのに、言葉をなくして震えていく九蔵を大切に抱きしめるニューイは、覚悟を決めた声で酷いことを言うのだ。 「大事な話を、聞いてほしい。手酷く詰って構わない。例えキミが私を憎く思い殺そうとしても、喜んで刃を受け入れる。だが……私の心は、変わらない」 「…………」 「私は、個々残 九蔵を愛している」 「っ……」  ──愛している。  確かに聞こえたそれは、待ちに待った最も欲しい言葉だった。  全身に駆け巡る熱。幸福感。信じられないくらいの恍惚に満ちた瞬間。 「う……嘘だぁ……っ」 「っ? く、九蔵」  意味を理解した九蔵は、ニューイの腕の中で必死に首を横に振って抗った。
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