第四話 ケダモノ王子と騒動こもごも

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 リベンジプロポーズ騒動が丸く治まってから、しばらくが経った。  それによって、変化が少し。  まずプロポーズは白紙になり、九蔵はニューイと本契約はしないままになった。  つまり九蔵は魂を縛られずニューイの屋敷に行くこともなく、これまで通り平和に一般人として暮らせるのだ。  それだと悪魔の世界に行かなくていいので助かるが、九蔵は諸手を挙げて喜べない。  イチル喪失というトラウマがあるニューイは、また愛する人を縛れずに気が気でないのではないだろうか?  突然の喪失が心底怖かったから、取り戻すために魂を追いかけて、人間の世界にやってきたわけで。  そう言うと、ニューイはテレビを見ながら膝に乗せていた九蔵の顔を覗き込み、ナチュラルな動作でキスをした。 『理由はいろいろあるけれど……九蔵を見ていて、私はキミの好きなものがわかってきたのだ。テレビ、マンガ、ゲーム、パソコン、スマートフォン。主にイケメンなものだね。それに真木茄 澄央や、アルバイト。前の通りの猫もだ。それらがなくなると、キミはとても寂しいと思う……だから、キミがいなくなると寂しい私が、キミのそばにいるのだよ』  名案だ! とばかりにニコニコと笑い、何事もなかったかのようにテレビへ視線を向けるニューイ。  もちろん九蔵は顔を両手で覆って「ガッデム」と呟いた。  尊さの絨毯爆撃だ。翌日には菓子折を持ち、大家さんに居住人数が増えたことを報告した九蔵である。  それから、ニューイが生活費(という名の札束)をねじ込んでくるようになった。  目玉をひん剥いて突き返し問い詰めたところ、ニューイはモジモジと肩を丸めて白状した。  ニューイ曰く、元々なんの役にもたっていないことが気がかりで、対価なくスマートフォンを貰った時にそれが爆発してしまったらしい。  急ぎ屋敷に戻って宝石類を換金して大金を作ったはいいものの、ふと思い立つ。  九蔵はアルバイトで稼いだお金でニューイを養っている。すると手に握った札束は、どうも釣り合いが取れていない。ただの紙クズに見える。  困ったニューイはズーズィに相談して、なんとファッション部門の専属モデルとして雇ってもらうことになったのだ。 『ズーズィの会社は、アクセサリーや服を売っているのだ。私は喋るとポンコツで力加減が下手くそだろう? モデルなら喋らなくていいし、メディアに露出をしすぎて悪魔だとバレないよう、ズーズィが仕事の調整もしてくれる。誘惑は悪魔の本分だからね。仕事はとても楽しいよ!』 『なるほど……それで、マメにズーズィとメシ食ってくるって出てたわけな……』 『! く、九蔵。言っておくが、嘘ではないし誓って浮気はしていないぞ?』 『そこじゃないですニューイさん』 『九蔵に嘘を言うと胸がキシキシとするので、九蔵の手料理を泣く泣く諦めてちゃんとズーズィと食事をしていたとも……!』 『そこでもないですニューイさん』  言い訳をするところも頑張るところもズレているニューイに「嫌いにならないでおくれぇ〜!」としがみつかれながら、九蔵は光のない瞳で遠くを見つめた。  そんなわけで九蔵がアルバイトをしている隙にコソコソ就職して稼いだニューイは、賃金を全て九蔵に差し出したわけだ。  そして今後も差し出すらしい。  断固差し出すらしい。断固。いや困る。
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