第四話 ケダモノ王子と騒動こもごも

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『ああもうなんでお前さんはそう隙あらば人を腑抜けにさせようとするんですかねぇ……!』 『九蔵、どうして嫌がるのだ? 人間の大好きな不労所得だよ!』 『大好き言うな』 『ぐぬぬ……三食昼寝付きにインターネット使い放題フードドリンクいただき放題! 食事排泄睡眠性行為全てのサポートをドストライクイケメンが笑顔で行う素敵な生活をあなたに!』 『どこで覚えたそんな必殺の呪文!? さてはズーズィの入れ知恵だなッ!』 『うむ。九蔵に受け取りを拒否されたら言えと教えてもらったのだ』 『素直でよろしい!』  絶対に貢ぎたいニューイVS絶対に貢がれたくない九蔵。  生きているだけで相手が愛おしいニューイの恋人の愛し方は、どうやらなにもかも自分じゃできないほど甘やかし一生イチャイチャ暮らすことのようだ。  悪魔か。悪魔だった。  推しには貢ぎたい九蔵なので全力で突き返したが、ストリップショーのおひねりが如くねじ込まれた。コノヤロウ。  ゴホン。話が長くなった。  いい加減まとめよう。  なんせ──改めて住まいと職と金を得たニューイは、生活以外はいっちょ前の人間になったということ。  生活面も少し成長している。  ゴミ出しだってできるし、洗濯機を回すくらいはできる。トーストも焼けるし、レンジでチンもポットも使えるネオニューイ。  破壊率はたったの五割だ。  なんの憂いもなく、ハッピーな恋人同士の同棲生活が送れるだろう。  ──しかし。  個々残 九蔵というコミュニケーション下手な男は、こと人間関係(悪魔関係)に関してなら、人一倍悪い想像をするのが得意な男なのである。  難儀ということなかれ。  確かに、あれだけ望み薄な恋だと思ったのに実は両想いでカップル成立とかいうご都合展開オチは、最高寄りの最高だった。  けれどネット情報を見るに、付き合ってからなにかしら不満が出てサクッと別れるパターンはごまんとある。  マンガやドラマと違って、そして幸せなキスをしたエンドなどない。  継続は力なり。  付き合ってからが本番なり。  ふとした拍子に失恋なんてしてしまったら、立ち直れる自信は爪の先ほどもない。インポッシブル、不可能だ。  陰キャ乙女ンタル男にとって、ニューイという悪魔の中毒性を舐めちゃいけない。  この感情がものっそいわかりやすく全力で貢ぎ必死にアピールしてちょっとアレなくらい溺愛する悪魔にドブると、もう他の人間と付き合える気がしないのだ。  というか難易度ベリーイージーラバーのニューイと上手くいかない九蔵なら、誰と付き合っても上手くいかない。──ならば!  ──万全を期して万が一の破局に備えねぇと、将来ニューイロスで死んじまうッ!  交際を始めてたった数日で勝手に破局の未来を考え勝手に恐怖するある意味マゾヒストの九蔵は、早い段階で手を打つことにした。  そして九蔵が夜のおやすみ前に打つ手とは、すなわち……アレだ。 「ニューイさんや」 「なんだい?」 「お腹が減っていませんか」 「満腹だとも。今日の晩ご飯もとても美味しかったのだ。九蔵は料理の天才だね。こんな素敵な恋人がいる私は、世界一の幸せものに違いない」 「はい。俺も満腹です。……じゃなくて」 「? 九蔵?」  九蔵は全身を羞恥に焼き焦がしながら、モゾモゾと布団の中から這い出でた。  薄暗い月明かりの差し込むベッドの上で正座をし、腕をスリ、とこすりつつ、真っ赤な顔をうつむかせる。  伝家の宝刀。  パンイチで、だ。 「…………察してください」 「かしこまる」  相変わらず夜のお誘いイコール脱ぐ一択の極貧経験値な九蔵を前に、全てをお察ししたニューイは〝我慢〟という言葉を脳の彼方へブン投げるのであった。
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