第四話 ケダモノ王子と騒動こもごも

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 越後の衝撃発言からATフィールドが全開になった九蔵は、帰宅した後もモンモンと思索を巡らせていた。  さり気なく話を掘り下げて真偽を探ると、越後の家は先祖代々から続くエクソシストの家系だそうだ。  この街にはパトロールのためにやってきたと言う。  ハイテンションでそんな話をされ、九蔵はうんうんと特にツッコミを入れずに聞いていたが、内心冷や汗がダラダラと流れていた。  だって、そうだろう。  悪魔と付き合ったタイミングでエクソシストがバイト先にやってくるというのは、偶然にして出来過ぎな気がする。  しかしござる口調なのにエクソシストというブレブレな越後の言い分だけで判断するのは、臆病、いや慎重な九蔵として浅はかだ。  普通に考えると、若者特有の不思議好きが極まってああなっただけである確率が高いとは思っている。  エクソシストに会ったことなんて今までなかったのだから考えすぎに違いない。  だが、万が一。  万が一、ガチだったら?  グルグルと考え込む九蔵は、ニューイの手作りカレーどころではなかった。  具材のサイズも煮込み具合も疎ら。その上ねっとりしつつも香ばしくやけに舌がピリピリと痺れる不思議な味わいのカレー。  彼氏手作りのそれをゴクンと飲み込む。 「ニューイ」 「カレーライスの失敗についてなら、九蔵が帰ってくる前に自分反省会を行ったよ」 「それはいいんだけど、ちょっと聞きたいことがあってさ」 「隠し味のことかい? 実はデーモンビリビリマダラ蜂のハチミツを少々」 「悪魔素材入りのカレーだったとか聞いてないんですけど」  ニッコリと眩い笑顔で告げるニューイの口から予想外に衝撃の事実が吐かれ、一瞬九蔵の気が反れた。笑顔にも気が反れた。  なるほど。ビリビリのあたりがこの痺れる舌ざわりを生んでいたということだな? わかった。  全く隠せていないだとか、なぜ普通のカレーの隠し味が悪魔素材なのかだとか、ツッコミどころは満載だが一旦それは置いておく。  どうせ全部食べるのだ。  ニューイの料理はなんでもごちそう。 「なんかさ、エクソシストっているだろ?」 「エクソシスト? あぁ、いるね。人間の世界で黒魔術や悪魔召喚が盛んだった頃、悪魔たちはみんな手を焼かされていたと思うぞ。ムフフ」 「んふっ、……へー」  九蔵に質問される。イコール興味を持たれている、頼られている。  そう感じて嬉しいニューイは、デレデレと破顔して答えた。  わかりやすいので見ている九蔵も恥ずかしい。悶絶寸前だったほどには。  なんでもないフリが得意でよかった。  慣れてきているとはいえ、いつまでたってもニューイの顔は好みドストライクで愛しい顔だ。 「それって現代にもいんの?」 「いるとも」 「この国にも?」 「もちろん」 「マジか……でも実際問題、エクソシストに悪魔祓いをされたって、ニューイは祓われちゃったりしねーだろ? 銀とかニンニクとか全然へーきだしさ」  そう言うと「それはドラキュラだね」と言われる。どっちでもいい。  とにかく指パッチンと呪文でたいていまかり通るニューイさんが祓われるわけないだろ? と念押しすると、ニューイはコックリと頷いた。 「祓われちゃうのだ」 「祓われちゃうのか……」  頬袋いっぱいにカレーを頬張ったニューイは、キューンと眉を下げてふがいなさそうに咀嚼する。  九蔵は眉間を押さえて唸った。  祓われてしまうなら、越後が本物かどうかを確認している暇はない。  越後の住まいはこのあたりなので、万が一エンカウントしてうっかり祓われてしまう可能性もある。  そうなるといよいよニューイロスが現実味を帯びてきた。推しをロスしたオタクの末路は悲惨である。  SNSにはびこる先人たちの屍はそれはもう哀れなものだった。ナンマンダブ。
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