第四話 ケダモノ王子と騒動こもごも

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 ──ファッションやインテリア雑貨などを扱う会社〝プレイバックマウス〟社長・桜庭(さくらば) 優人(ゆうと)ことズーズィ。  彼の目の前では、甘いマスクの美丈夫が長い手足を惜しみなく駆使して、来月の新作を使ったコーディネートを写真に収められていた。  バチン、バチン、とシャッターが降りるたびに、立ち姿を変えたり顔の向きを変えたりと些細な変化をつける。  撮影を行うニューイはカメラのレンズを見つめながら、今日も九蔵のことを考えているのだろう。  ズーズィがアドバイスしたからだ。  どんなふうにすればいいのか? と尋ねたニューイに「好きな子思い浮かべてカッコつけとけばキメ顔できるっしょ」と。  誘惑は悪魔の本分だが、ニューイはもともとあまり人間を誘惑する気がない。恋しい相手くらいしか誘惑しない性格だ。  なので、そうアドバイスをした。  コンセプトに合わせて感情を抑えていても、わかりやすいニューイなので心の赴くまま表情やオーラが変わる。しめたものだ。  九蔵の良さに気づき日々を楽しんでいた頃は、ラフで明るい日常感があった。  夏にふさわしい絵が撮れたと、当時のズーズィは満足した。  プロポーズで揉めていた頃は、イチルと九蔵のことを想い、切なくアンニュイな品があった。  落ち葉の似合う秋らしさがあり、またしてもズーズィは満足だ。  モデルが魅力的だと、顧客に「こんなに素敵になる服なのか」「この人のようになりたい」「この人の着ている服がほしい」と思考の連鎖を起こせる。  商品を引き立たせるためには、まず、視線を惹くモデルが必要だった。  モデルのニューイは自然体のまま、ズーズィの期待に器用に応える。つまらないことに優秀な幼なじみである。ズーズィはいつも満足だ。  ゴホン。長くなった。  では、それを踏まえて、現在。  みんな大好きクリスマスが来月にあるため、聖夜らしいシックで大人な夜感が欲しいズーズィは、もちろん── 「いやデレデレし過ぎじゃね? デレデレ通り越して顔面猥褻物なんですけど? ボクAV男優のパケ写撮れって言ってねーし? 大人っぽい色男通り越して夜の帝王じゃん。誘ってんじゃん。その物欲しそうな目ぇマジ不快か〜ん。それだと服じゃなくてニュっちに目がいくでしょ? ベッドインする気分になるっつーの。ロマンチックな聖夜のコンセプトがドエロチックな性夜にメタモルフォーゼしちゃってるから。クソマヌケアホバカドジっ子エロエロ悪魔」  ──不満たっぷり。  カメラの後ろに立ち、極々小さな声と口パクで延々とニューイの悪口を言っていた。  だって、仕方がないじゃないか。  大人の余裕を表情に浮かべるべきニューイが、眉を微かに顰めて、熱っぽい目を揺らめかせているのだ。  首の角度を変えて、ポーズを変えて、あぁ全く意味がない。  誘惑オーラが垂れ流しで、スタジオの人間たちの視線がニューイに釘付けだった。  男も女も関係なく今ならみんなホイホイ足を開くだろう。片っ端から抱けるはずだ。悪魔とはそういうものである。  人間は誰も悪くない。  悪いのは色ボケ悪魔、ただ一人。  何百年ものの幼なじみ語訳では「今すぐ大好きな九蔵を抱きしめてベロベロチューして身体中舐めまくってグチャグチャドロドロ激しいセックスした〜い!」というニューイの心の声がありありと聞こえていた。  毎日お盛んか、コノヤロウ。  乱入して3Pしてやりたい。
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