第四話 ケダモノ王子と騒動こもごも

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「せっかく恋人同士になったのにデートも行ったことなくても、我慢はしてなかった。俺はお前がいるだけで幸せ。脳みそパンパカパンなんだよ。だから、俺もデートしたことないとか気づいてなかった。お互い様」 「今日、こうやって突然連れてこられたけど、こういうデートは嫌じゃない。むしろ動けないくらい嬉しかったぜ。今だってこうやって膝抱えてねーと、お前にしがみついてめちゃくちゃにキスしたくなるんだ。恥ずかしいから、やらないけどさ」 「ホントはお迎えも抱えて歩かれたのもエントランスのセリフも一緒に風呂に入るのも、バカみてぇに好きになった。死にそう。お前がカッコ良すぎて俺はいつも死にそう。ついでに自分がダサくて死にそう。これはセットで自信なくす。なくすけど、ずっとくっついてたい。なんとかしがみつく」 「サプライズ。昼間のデートに誘わなかったのは、急に予定が狂うのが嫌いな俺を気遣ってたんだろ? バイト上がりの夜ならあと寝るだけだからって。その範囲内でロマンチックにしようとした。俺の好みに合わせて。全部わかる。そこは、まぁ、器用だからさ」 「確かにゲームしたり漫画読んだりドラマ見たりする時間が好きで、それを邪魔されたくない。けど、お前だってワガママ言っていいんだよ。言われたいんだ。ワガママ言われないと不安になる。わかる。お前のために丸一日あけてデートとかするよ。ゲームのイベント走れなくなっても、まぁいいかって思う。お前なら、なんか、イイって思う」 「俺が我慢してんのは、ワガママだけじゃねーんだ。お前のことが好きすぎる。俺、口数多くなるタイプのオタク。真顔でキモイぐらいベラベラ喋る。語彙力なくすと丸くなって崩れ落ちる。ウザイから、なんでもないフリしてんだよ。今だって凄いこと考えてる。なんだかわかんねーだろ? ちゃんと言うから、ドン引きすんなよ」 「このジャグジーに浮いてるバラの花びら、こっそり持って帰って事務所でラミネートしてやろう、とか思ってる」 「そんぐらい、俺、お前が好き」  ニューイがなにも言わないことをいいことに、九蔵はニューイの手のひらにヒラヒラといくつも言葉を撒いた。  浮かれて、暴れそうで、溶けそう。  死ぬほど恥ずかしい。いや、自ら湯の中で埋まって死にたい。  けれど、どうせ後でなんてことを言ったんだと後悔するくせに、今は取り消す気にはならなかった。  初めての恋人だからとか、理想の顔立ちだからとか、一時のハイテンションだとか、冷静になろうと茶々を入れて自分の恋心を試す自虐は、もう散々やっている。  だが、冷めそうにない。  自分は底抜けに一途な質らしい。  惚れたほうが負けだと言うなら、自分は惚れて惚れて惚れ抜いて大敗だ。ベッタベタに惚れた。  ニューイは一生、自分に好きの量で勝つことはできないだろう。ざまあみろ。 「ってことで、ぎゅっと握ります」  九蔵はわざとワントーン明るく声を上げ、自分が恋心の恥を晒して吐露したニューイの手のひらを、閉じさせた。  それを丸めて、キュッキュと握りこぶしを二つ作る。されるがままのニューイ。 「特製おにぎり。はいどうぞ」  それを特製おにぎりと言い張り、ニューイの握りこぶし二つを両手で包んだ。 「ニューイさんは、俺さんのこれを持っててください。不安になったら開いてください。耳に当ててください」 「…………」 「俺さんは本当はワガママで、ニューイさんのことをとても愛しています。と、聞こえます。特製おにぎりなので」 「…………」 「んで、今後はちゃんとワガママ言いますよ。我慢しませんよ。まぁ、言葉にするのは苦手なので少々お待ちを。それまで、特製おにぎりを肌身離さず持っててください。不安にならないでください」 「…………」 「以上。コメント不可」  九蔵は矢継ぎ早に説明を終え、ニューイの両手を解放した。  ニューイは無言のままだ。  本当にノーコメントだと尻のあたりが痒くなる。恥ずかしい。九蔵の耳はエビもちのように赤くなって戻らない。  それから、黙りこくっていたニューイがようやく動いたかと思うと。 「はぁぁ〜……」 「ぅひ」  深いため息を吐きながら九蔵を強く抱き締めて、がっくりと項垂れた。
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