第一話 片想いと片想われ

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「私の好きな食べ物はもう知っているはずだろう? 前世で散々共に食したのだから」 「や、今世じゃ一回も聞いてねーんですけど。あと顔が近い」 「う……でも、九蔵は私に興味がなさそうじゃないか。私はもしかしたら魂の記憶が残っているかも、と思っているのに、思い出そうともしてくれない」 「あー……そりゃまあ……あと顔が近い」 「私は、そろそろ寂しい、とも思うのだ。そのゲームとやらの画面ばかりでなく、ちょっとは目の前にいる私と仲を深めてくれ」 「ものっそい顔が近い」  ムフフ、とイタズラっけのある表情を見せつけたニューイは、自信満々に瞳を輝かせて告げる。  九蔵は全力で目を逸らし「うぐ」と表情筋を顰めた。しかしニューイが視線の先に顔をずらして、逃がさないとばかりに詰め寄る。 「ちっ近いって顔がさぁ……っ」  恨みの籠った悲鳴も届かず。  ニューイは身を乗り出して九蔵の手を両手で握り、無邪気な天然タラシを丸出しにして、桃色の頬を緩めた。 「好感度アゲ、ということで忙しくしているけれど……私の九蔵への好感度は、すでにマックスなのだぞ? その小型の板に映るイケメンとやらなんかより、私のほうが九蔵の魂を愛している自信があるし、これからもそうあるつもりだ。だからもっと、私を見てほしいのだ。私との時間を作ってほしい」 「もうわか──っはぁぁぁぁ……っ! まつ毛の長さ芸術的すぎるぜ……っ。ルビーのような瞳っつーのは表現だけじゃねぇんだよな、わかります。目の前に証明が生きてます。あ~これは目からビームもリアルガチですね。現在進行形で俺の視界がビーム浴びて視力向上中かよ。ブルベリアイ要らずですか。イケメンを見ると健康になる。アントシアニンパワーセルフ摂取待ったナシ」 「つ、憑かれているのかい……!?」  メンクイ本能、いや煩悩の限界である。  突然真っ赤になってひたすら謎のセリフを吐き続ける九蔵に、ニューイは新手の悪魔が乗り移ったのかと慌てて素早く周囲を警戒し始めた。  カタピシッ! と頭蓋骨も軋む。驚きのあまり飛び出した翼としっぽがドガシャンッ! と雑貨棚を破壊した。  もちろん憑かれてなどいない。  強いて言うならニューイという悪魔のせいだが、それを言うわけもなく。 (やっ……ちまった……! くそっ、この無自覚誘惑天然タラシ様め……!) 「うむむ……悪魔の存在は能力を使われなければ察知できない。九蔵を誘惑した瞬間私は気がつくはずだが、手練の悪魔か……っ?」 「んん、なんでもないから、そんなことより棚を直せ」 「おぉう」  我に返ってヨロヨロと起き上がり、素知らぬ顔で誤魔化してみせた。  棚を指パッチンで直したニューイは、ペタペタと九蔵の体を触って怪我がないか確認する。無傷とわかるとようやく落ち着いた。過保護な悪魔だ。 『主、予定十分前だよ! 忘れ物は大丈夫か? 俺も忘れずに連れて行ってな』 「はいよう。あぁ、時間経つの早すぎんな……もうバイト行かねーと」  そうして食事を終えると、出勤前に合わせていたユノのアラームが鳴った。時間が経つのは早い。ニューイとの会話を適当に切り上げてさっさと準備を進める。 「ぐっ……またしても、イケメンとやらばかり……、……私は……」  九蔵は気がつかなかった。  またしても構ってもらえず、前世から恋焦がれるという長い長い時を経た再会から、寂しさに飢えているニューイの熱視線に。  だから、突然── 「っ九蔵! その板のイケメンには、魂を感じない。偽物だっ。私は現実にいるのだから、話をする相手は私でいいではないかっ?」 「うぉ……っ!?」 「九蔵、どうしていつも私から目をそらすんだい? 前の九蔵は、私を必ず見つめてくれていたのに……っ」  ──涙目のニューイは爆発し、バックパックを背負う九蔵の手から、ユノの映るスマホをひったくったのだ。
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