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さてさて。
脳内を通り越して鼓膜を揺らす衝撃のプロポーズに、自然と九蔵の口からお断りの言葉が飛び出してからしばらく後。
(……どうしたもんかね……)
「…………」
『ヒ、ヒン……』
フローリングにあぐらをかいた九蔵は腕を組み、途方に暮れていた。
理由はもちろん、目の前でシューンと肩を丸くして正座をしているキテレツ寝起きドッキリ犯──ニューイだ。
あのあとプロポーズをお断りされたニューイだがなりふり構わず食い下がり、何度も頭を下げて諦めなかったのだ。
なので根負けし、部屋に入れた。
近所迷惑だというのもある。
一応自分でも、よく知らない悪魔を部屋に入れるなんてちょっとどうかと思う。
しかしなにかと苦労もあった人生経験から、九蔵は〝とりあえず相手に合わせる〟という事なかれ主義の順応体質だ。
悪魔相手でもそうなるとは。我ながらアホである。もう少し頑張れ。
ちなみに壊れたドアはニューイがアワアワと慌てて元通りにしてくれた。
ニューイが指を擦ってカッチンと鳴らすと、実態のない映像が巻き戻るようにドアは馴染んだ状態に修復したのだ。
なんでもありか。骨なので、指パッチンじゃなく指カッチンだけども。
見掛け倒しでなく人間の常識に当てはまらないリアル悪魔であることを実感し、一歩距離をとった瞬間だ。
九蔵が距離をとるとニューイは寂しげにカタピシと骨を鳴らしたが、更に一歩距離をとった九蔵である。
ニューイが鳴っているのは怖がらせたいからではなくただの不安表現とはいえ、感情に合わせてカタカタと鳴る骸骨は普通にホラーじゃないか。
『ヒン……ヒン……』
「なにも泣かんでもいいでしょうて……普通にしてりゃあんまり、怖くねぇから」
『ヒ』
「プロポーズ云々は別な」
『ヒィンっ』
雲行きの良くない九蔵のセリフに、カタポキッ、とニューイの骸骨頭が軋んだ。
怖がると軋むのか。人間が手の骨をポキっと鳴らすような音だ。
表情の変わらない角あり頭蓋骨は、動きで喜怒哀楽を表現するらしい。
『く、くぞう……なぜ冷たく……』
「あー……」
今は全力で寂しがっている。
ヒンヒンと呻くニューイの眼窩からは、チョビ、と涙っぽい謎の液体も垂れていた。
なんだか悪いことをしているようでやりにくい九蔵だが、「ンンッ」と喉を鳴らして仕切り直す。
「それで? 説明は?」
『!』
「悪魔のニューイは、なんで初対面の俺にプロポーズなんかしたんですかね」
『うっ』
九蔵が話を聞いてくれるとわかり、ニューイはパァッと物理的な花を飛ばした。
しかし続く九蔵の言葉にまたしょもんとしょげ、脳内にホワンホワンと声が響く。
『初対面じゃないのだよ』
「は?」
『九蔵は前世で〝愛し合う〟という契りを交わした、私の恋人だったのである……っ!』
「設定盛りすぎ問題勃発」
勘弁してくれ。もう見た目と登場シーンだけでもうおなかいっぱいなのに更に味付けの濃い情報を与えられ、九蔵の頭がもたれた。
しかしニューイは『設定ではないのである。聞いてほしい!』と食い下がる。
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