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「性気は奪ってもまた感じることができれば再び湧くだろう? 眠気や食い気、生気は回復に時間がかかるし、うっかり食べすぎると健康被害がある。だから私は人間を食べる時、性の欲望を好んで奪うのだ」
ちび、とみそ汁を飲んでホッコリするニューイはそう説明する。
「誘惑しないことはないが、してしまっても性気しか奪わない。安心してほしいぞ」
ちっとも安心できない。
九蔵は無言のまま、ちらりと視線をニューイに移した。みそ汁がうまいとホコホコしている、無害な子犬系イケメンがいる。
(……まぁ、それがメシなんだから、飢えさせたらかわいそうだよなぁ……)
ニューイは悪くない。
悪魔が食事をするために、都合がいいからそう生まれているだけだ。
「それに、責任もとる。誘惑してしまった相手が望むなら、朝までだって付き合」
「誘惑ね……はぁ」
「!?」
盛大に息を吐いた。仕方ねぇよな、と納得した意味だ。
ニューイとの関係を前向きにとらえたことも含め、九蔵の胸はカーテンをそよがせる春風のように清々しい。
せっかくの仲を拗れさせるより、生物としての都合があるなら理解しよう。
誰が相手でも食事は食事。魂は関係なく、九蔵が相手をしたとしても慣れたニューイは不快に思っていない。と、思う。うん。
恥ずかしく思わなくていい。
「誰でもいいんだからな」
「そっ、そういうわけでは……っ」
頷く九蔵は、ニューイが客観的に見て無許可で誘うふしだら男は人間的にマズイのか、と焦っていることに気づかない。
食事をハレンチな行為だとは思っていないニューイなので、重要なことは〝九蔵の好感度が上がるか下がるか〟である。
こちらもある意味で乙女ゲーム真っ只中だろう。攻略対象が個々残 九蔵一択のニューイ専用婚活ゲームだ。
「ままま、まさか、ドン引きなのか……? 誘惑系悪魔は、人間的にNGなのか……?」
「は? いや、ドン引きってか、悪魔ってわかってるけどゲームみてーな非常識設定だなって思ってるだけだけど」
「ひっ非常識っ」
「つーかニューイがこの性格じゃなきゃワンナイトカーニバルし放題だよなぁ……」
「いや、いやっ、空腹でなければあたら人間を誘惑することはないぞ? そして現在の私は九蔵以外の人間と接点がないので実質九蔵専属の悪魔であって、つまりその……私は九蔵だけの悪魔で……」
「ん? ん……?」
しかしニューイの遠回しな〝私は身持ちの軽い悪魔さんではなく一途な悪魔さんです〟というアピールなど、九蔵の心に届かない。
首を傾げ、それからなんとはなしに言いたいことを察してみる。
──んー……たぶん腹が減ったら他の人間に手を出すかもしんねーから、俺の欲望とやらを継続的にちょこっと欲しいんだな。
正解だが不正解。
自分をさほど好きじゃない九蔵は、まっすぐな好意には気づく。けれどそうじゃないアピールには気づかない程度の、フワッとした鈍さがある。
ニューイのアピールに気がつかず別の意思を読み取った九蔵はうーんと思案する。
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