第二話 気になるモテ期

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 それから、更に一ヶ月ほどが経った。  ニューイとの生活も板についてきた今日(こんにち)は晴天なり。バイトも休みである。  お洗濯日和のこの日はなにをするのかというと、九蔵の友人──真木茄(まきな) 澄央(すおう)の自宅へお礼に行くことになっていた。  いつかの約束通り、澄央はニューイのために要らない服をいくつか見繕って与えてくれたのだ。  なのでその服を着せて、本人に直接お礼を言わせるはこびである。  澄央はニューイに会いたがっていたので、きっと喜ぶに違いない。  今日ニューイが着てきた服は、格子模様がうすらと入った白のカットソーにベージュのパンツ。  澄央の趣味が入っているが、それらを合わせて着こなしたニューイは普段の貴族服と違ってラフな魅力があった。  普段上等な服装と上品な顔立ちでまさかの子犬のごとくニヘラ~と笑うニューイには、なかなかのギャップ萌えがある。  それも服装が現代らしいものに変われば、男らしくも優しげで親しみやすいただのいい男でしかない。  全九蔵が「ナイス擬態!」と脳内拍手喝采間違いなしだろう。  もちろん最低限の常識と注意も、九蔵が口を酸っぱくして言い聞かせている。  特に「不安になっても絶対悪魔の姿には戻んなよ?」とは強く約束しているので、迂闊に人を怖がらせることもないはずだ。 (まぁ自覚のねー発言は止めらんねーけど……) 「平日だし、なるべく人気のない道通ってるし、大丈夫だろ」  穏やかな陽気に包まれる住宅地をノコノコと歩く九蔵は、自分の背中に大型のドジなイケワンコを引き連れて淡々と進む。  人間に擬態してから初めての外出であるニューイだが、物珍しそうにあたりを見回しながら歩いていた。  ただし九蔵の背中の部分をちんまりとつまみ、離れようとはしない。 「九蔵、九蔵」 「はいよ」 「人間は不便ではないのか? 地に足をつけて歩くとこんなにも時間がかかるだろう? この程度の距離、空を飛んでしまえば簡単に済むというのに」 「あー……悪魔からすると不便かもしんねーけども、人間は翼がないだろ? 歩くしかないわけです」 「それではどうして飛べない人間があんなに背の高い建物を作っているのだ? 上がるのに苦労するじゃないか。九蔵の魂を何十年も追いかけていたから気にしていなかったが、たった数十年で人間の世界は変化しすぎている……」 「うん。そりゃエレベーターがあるから背が高くってもいいんだよ」 「エレベーター。外からは見えないのだな。マキナスオウという人間の住処にはあるのか?」 「いーえ。ナスんちも俺んちもそこそこグレードのアパートなのでありません」 「なんとっ。では九蔵たちはグレードの高い住処には越さないのかい? 私には手付かずの金銀財宝など資産が多くあるので、それを換金すればきっとあのくらいの塔ならいくつか購入できると思うが……どうだろう?」 「どうもこうもしません。タワマン丸ごといくつかとかどんな貢ぎ方だよ。いちいち人を堕落させようとすんな。リアル悪魔の誘惑すぎるだろーが」 「うむむ……っ私は本物の悪魔であるし事実九蔵に私を好きになってほしいので、可能な限り貢ぎたいと思うのは当然のことなのだよ。堕落は大歓迎であるっ」 「悪魔式の常識は封印しなさい」 「くぅーん」  隙あらば九蔵をダメ人間にしたがるニューイだが、鉄壁の男はそう簡単に堕落しないのだ。  ある程度のことはなんだって自分一人でこなせる九蔵なので、二次元級寵愛悪魔の囁きにも傾かない。  顔さえ見なければ、九蔵は無敵だった。
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