第二話 気になるモテ期

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 そんな感じで人目を避けつつてっこてっこと歩くと、クリーム色の外観が優しい二階建てのアパートに到着する。  呼び鈴を鳴らせばすぐドアが開き、一見して殺人鬼にしか見えない目つきの澄央がのんびりと出迎えてくれた。  寝癖が酷いことになっている。 「ふぁ……朝ココさん……おはス……」 「朝モックみたいに言わない。おはよ、ナス」 「ナス言わんでス……んー、……んんー……、二人とも、どぞ」 「? あぁ、お邪魔します」  若干眠たげな澄央は目をこすりニューイをチラ見したが、すぐに目を逸らした。  九蔵としては拍子抜けだ。  イケメンの教科書のような顔面を前にした澄央にしては、反応が薄かった。  澄央は九蔵と違い、男好きなことを隠していない豪胆な男である。  九蔵と仲良くなってからはマイペースが顕著で、イケメンを前にすると素直な反応をし、話題に上がればあまり気にせず自らの性癖も明かす。  その澄央が、この九蔵的に最高峰のキラメキイケメンに無反応。 (腹でもいてぇのか……?)  九蔵は首を傾げながらも部屋に入った。  ニューイも九蔵のお邪魔しますを真似、見様見真似で靴を揃え、部屋のものに触らないよう抜き足差し足忍び足で続く。  そんなニューイを見ても澄央はノーコメントだった。どうもおかしい。  しかし相変わらず澄央の部屋はズボラで物が散乱している。冷蔵庫がほぼ空なところもいつも通りだ。 (んー……具合悪そうには見えねーし、二人きりの時に聞いてみればいいか) 「ナス、これどうぞ」 「ふぁ。……ふぁー」  不思議に思ったがとりあえず置いて、リビングに入った九蔵は持ってきた紙袋を澄央に差し出した。  昼まで寝ている澄央なのでランチはまだだろうと思い、近所の美味しいパン屋さんのサンドイッチを持ってきたのだ。もちろんニューイは店外でステイさせていたとも。 「一家に一台ココさんが欲しいス」  九蔵の手から紙袋を受け取った澄央は、そのままムギュ、と九蔵に抱きついた。 「俺を嫁に貰ってほしいスよ。持つべきものは、気の利く先輩、ス」 「っ!?」 「おっと」  これはいつものことだ。ついでに尻を揉まれるのもいつものこと。  冗談だが嫌じゃないか? と言われた九蔵が大丈夫だと答えたのは、ずいぶん前の出来事である。 「あっ……あぅ……っ」 「はいはい。俺もナスなら嫁さんにほしいから、話しながら座って食えな」 「あうぁ……っ」 「ふーむ。なるほど。最高の顔、じゃねーや。涙目になるほどガチ恋……了解ス」 「ん?」  どうかしたか尋ねると、澄央はなにやら「ヤリモクの擬態か試す本気度チェックスよ」と言って九蔵から離れた。  抱きしめられていた九蔵には、自分の後ろで飼い主を奪われかけた子犬と化していた悪魔様の姿など見えていない。  各々腰を下ろす。  ヴィンテージスタイルの男の部屋で、ひとつのちゃぶ台を三人の男が囲む。  しかしシュン、と黙ったまま大人しく正座をしているニューイは、なぜか九蔵にピタリとひっついていた。 「ニューイ。近い。暑い」 「…………」 「ニューイさん。五ミリぐらいしか離れてないですよ」  九蔵の言うことは聞くが、ほんの微かである。困る。いろんな意味で、困る。  それを澄央がじっと見ながらなにやら納得しているのも恥ずかしくなってきて、九蔵は「ほら、挨拶しろな」とニューイを押しやり前を向かせた。 「はじめまして、ニューイ」 「う、うむ」  澄央が先に挨拶をする。しかしニューイはちゃぶ台の下で九蔵の服の裾をちんまりとつまみ、やはり小さくなったままだ。  ……まさか、怖いのだろうか?  いや確かに澄央は強面だが悪魔よりは怖くない。だがニューイはニューイなので、怖いのかもしれない。
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