第二話 気になるモテ期

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「……ニューイ、あのな」 「むぁ……」  ならば、と九蔵はニューイの耳に口元をよせコソコソとフォローを入れる。横からなら顔を見ないで済むからだ。  しかしいい匂いがする。髪がサラサラだ。長くは持ちそうにない。 「ナスは俺の友達だぜ? 元ヤンに見えるけど、ちっとも怖くねーよ。怖いことをされたとしたら俺がちゃんと守って話合わせるから、なんも気にしなさんな」 「ぉあ、ま、守る」 「そう。俺、今ナスしか友達いねーんだ。そういう俺でも仲良くなれたくらいコイツはいいやつだから、そもそも絶対ニューイのことぶったりしねーしさ」 「とも、友達……お嫁さんには……」 「は? ……いや、あれは冗談ですよ」 「ふぉっ……! 挨拶するぞ……っ!」 (この反応は……なるほど。嫁さんになりたいニューイのポストがなくなったと思ってたわけか……。……早とちりドジっ子わんこ)  察しのいい九蔵はサクッと納得した。  熱が集まりそうな頬のために素早くニューイから離れ、涼しい顔を装う。澄央にはバレていそうだ。  憂いの晴れたニューイはようやくフニャ、と眩いばかりにキラめく笑顔を見せ、いつも通りの親しみやすい態度で挨拶をした。 「取り乱してすまない。私は悪魔。ツノ骸骨のニューイである。真木茄 澄央、私に衣服を譲ってくれてありがとうなのだよ。もしキミが黒魔術で悪魔召喚をする時は、必ず私が応じると約束しよう」 「ぁぁん……っ」  やはり顔がいい。思わず声を上げる。この場にいる二人ともがわかっているのでツッコミはなしだ。  固い口調に高貴そうな顔立ち。しかし笑い方はフニャフニャワンコ系。地球にやさしいLEDライトが、ドストライクイケメンだ。  今日はまだイケメンに反応していない澄央は、これでも必殺されないのだろうか。強い。 「ほう……裏表なし……ココさんの言うこともよく聞く……温厚……危険度なし確定……」  妙にドキドキとしながら澄央をチラリと見ると、澄央は極小さな声で独り言をいい深く頷いた。  そして真剣な面持ちで、ソッ……と自分のスマホをニューイに見せつける。 「よし、アンタを無害な超激レアスペシャルシャイニングイケメンと認めるス。つきましては──あらゆる角度からアンタを撮影してもいっスか?」 「ふむ。人間は基本的に撮影会へとしゃれこむ礼儀があるのかい?」 「常識ス」 「安心した! 俺、ナスが俺の同類で安心した! あとちょっと恥ずかしいことしたなって思ってた過去の俺が救われた!」 「む? 九蔵、どうした?」  真顔で撮影会を切り出した澄央に九蔵は思わず諸手を上げた。  よかった。我が同志はどんな時でも通常運転だった。流石澄央。キスしてやりたい。冗談だが。舌を入れても許すレベルだ。 「俺ココさんに世話焼いてもらわなきゃ生活死んでるんで、いくらでも救うス」  突然声を上げた九蔵のニューイが首を傾げるが、澄央にはバッチリ気持ちが通じる。友情とは素晴らしい。 「さぁココさん。早くスマホを取り出すスよ」 「ホント、お前はできた後輩だな……過去の反省から私服バージョンの撮影が切り出せなかった今朝の俺も救われてるぜ……」 「むむ……? あの、よくわからないが私も九蔵を救うぞ? 私もきっと、役に立つぞ? ……私じゃ嫌かい?」 「ニューイ。お前がなにに張り合ってんのか俺にゃわかんねーけど、逆光で撮らせてくれたら今すぐ救われる」 「俺はなにに張り合ったのかわかるスけど、そこの黒縁メガネ掛けて撮らせてくれたほうが今すぐ役に立つス」 「是非撮っていただきたいっ!」  ──類は友を呼ぶ。  常識人な九蔵をポンコツにするメンクイスイッチを押されてしまうと、この場にツッコミを入れる人間も悪魔も、いないのであった。
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