第二話 気になるモテ期

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  ◇ ◇ ◇  人間の常識に偽装した撮影会を終え、初めての三者面談は大団円のまま幕を閉じた。  日が落ち始めたのでそろそろお暇することにしたのだが、靴まで履いた玄関先でもニューイと澄央のトークが途切れない。  どうやらこの顔面裏稼業と顔面スパダリな見掛け倒しコンビは、予想以上に仲良くなったらしい。  それ自体はいいことだと思う。  澄央は唯一と言ってもいい友人だ。悪魔の話をした時はニューイを警戒していたので、彼を受け入れてくれたことは嬉しい。  しかしこの二人の話題は主に〝九蔵について〟なので、聞いているこちらはたまったものではなかった。 「そうなのだ。九蔵は部屋を片付けるのがじょうずである。それにジタンというテクニックをよく駆使するぞ。九蔵は働き者だ!」 「そっス。ココさんは働き者でいい人スよ。全然笑わないところとミスったら距離とるところと人とノリを合わせたりなんでもない話をするのがド下手くそなんで、ほぼほぼ親しい人がいねーだけス」 「? 九蔵は笑うとカワイイ」 (げっ……!)  いきなり自分に似合わない方向性に話を進められギョッと目を剥いた九蔵は、頬がみるみる赤くなって思わず耳を塞いだ。  そそくさと二人から距離をとって、急いで部屋から出る。  バタン、と閉じるドア。 「う……あ〜……」  熱い頬を、風がなでた。  だってあんなこと、むず痒くなるので止めてほしかった。  話題の中心にされた挙句軽率に褒めたりするのは、心底勘弁だ。  九蔵をそうやって謎フィルターにかけてヨイショする人間はこの世できっとあの二人だけで、実際そんな大層なものではない。  働き者やらいい人やらカワイイやら。  スポットライトを浴びないモブ人生を歩む九蔵にとって、それらは総じて面映ゆい言葉たちである。  方向性は違うとはいえ九蔵に懐いている澄央とニューイは、気が合うらしい。  特に懐かれている自覚もなければ懐かれる理由にも覚えのない九蔵には、理解できない。  特にニューイ。  彼はいつも、九蔵しか見ていない。 「はー……マズイ、よなぁ……」  ニューイを思い出してしまった九蔵は、真っ赤に染まった頬をへならせ、弱りきった声を上げた。  ダラリと廊下の手すりに身を預ける。  実のところ……最近ニューイに触れられるとこちらの意志とは関係なく、体が熱くなって肌が緊張していた。  素知らぬ顔はみんな演技だ。本当は道中もニューイが服越しに背中に触れたせいで、発狂しながら逃げ出すことをあらゆる理由で必死にこらえていた。  一人になってようやく気が抜けると、途端にめんどくさい九蔵の心がヒョコッと悪びれもせず頭をのぞかせる。  イケメンに弱い自分は、こういう時に自分自身を惑わせて酷い。  頭が錯覚を起こす。  例えば、そう。  夢の中でなぞる記憶の、悋気だとか。  この後ろのドアの向こうの会話が、自分相手じゃないほうが弾んでいることとか。  気にするなんてバカらしいことばかり、九蔵のアンテナは受信した。  だって当然のことじゃないか。  澄央とニューイはどちらもいい男で素直だから、二人が話してるほうが合っているに決まっている。  自分は聞くだけでも楽しいタイプだ。  今日だって自分の話以外は、聞いていて楽しかった。  けれど話はしてない。  それならば、本日の自分は、いてもいなくてもいいと言えばいいような気がする。 「でも、ニューイも澄央も大事だから……〝俺も混ぜといてくんないかなぁ〟って思う俺は、なかなかの弱虫ですよねー……」  ──俺も二人の仲間に入れて。  頬の赤みを冷ましながら、九蔵はよく晴れた春の空に頭を向けて呟いた。
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