第二話 気になるモテ期

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「かわいい九蔵のお願いは叶えるぞ」 「か、かわいとか言う、っ……ぁ……っ」 「? 本当のことを言っているのだよ。九蔵、キミはいつもとても美味しそうだぞ」 「わかんねって……」 「どのくらいかと言うと、うぅん、このまま悪魔の世界に行けばきっと三秒で行列ができるだろうな……ふふ、だけど九蔵は私の九蔵である。指先一つ触れさせやしないぞっ」 「はっ…ふ……ニューイは大げさ、なんだよ……」 「そんなことはないとも。私がいるから過激な悪魔が近づかないだけなのだ。ひとりじめ、している」 「んぁ……っあ、ぁっ……」  甘ったるい言い方だ。腰がわななく。  ハァハァと乱れる呼吸の合間に鳴かずにはいられない。  唾液で色を変えたニューイの服の布を噛み、余裕のない吐息を誤魔化す。  どうせバレているが、冷静を失った熱や弱さをなんとなく見せたくない。これはニューイ以外でも、だ。  平気の平左とぶっているのが九蔵の常で、悪魔の力だとしても、快楽に溺れる様は控えめに偽装したいというのが男心なのである。  だけど……これまでなんだって受け入れてくれたニューイなら、いっそ開き直って乱れてしまったほうがいいのかもしれない。  そんなことを考えつつ自身を扱いている手と別の空いている手を開いては、ニューイの体を掴みそうで、掴まない。  男心。なかなか複雑なものの名前だ。 「九蔵、気持ちいいかい?」 「っ……は、音でわかんだろ……? いちいち聞くな……ん……はっ……」  九蔵の腰を揉み、時に擦り、的確に感じさせながら尋ねるニューイに、恨みがましい声が出た。  そんなこと、グチグチと粘着質な音をたてて扱いているくらい濡れているのだから当たり前だろう。  AVでも成人向け漫画でもなんでもどうしていちいちそんなことを聞くのやら。聞かれたほうは恥ずかしくって死にそうだ。  けれどニューイはキョトンとして、次いで九蔵の耳へ尖った鼻先を擦りつける。 「んっ……っくすぐって、な……」 「確かにクチュクチュと濡れている。けれど人間はどうか知らないが……悪魔が感じさせながら声をかけるのは、食事を提供してくれる人間への礼儀なのだよ」 「濡……っ、いや、れ、礼儀」 「そう。味、ゴホン。い、いや、気分を高めるために、こういった行為は双方が協力すべきだ。もちろん九蔵のオカズである私だって、九蔵の気持ちいいところをなるべく狙って堕落させたいとも」 「堕落は、っしねー……ぁ、はっ……」 「ぐぬぬ……もっとイケメンという力を磨かないとダメなのかい……っ」 「ふぁ……っ」 (これ以上磨かれたら眩しすぎて逆になんも見えねぇわっ)  耳元で教師のように真面目なトーンで語られると、吐息がくすぐったくて身をよじった。  誇り高、くはない人付き合い苦手マンの童貞戦士には知らない話だが、あの会話には意味があったわけだ。  確かにニューイという最高のイケメンに愛撫されるというオカズを得て、更に声まで聞くとたまらなく気持ちよくなる。理にかなっているような気がした。 「んふっ、っ……まあ、声が聞こえるほうが……ふっ……高まるマナーって、こと、か……っあ……」  世間一般とは違う解釈をする九蔵だが、それを指摘してくれる人などいない。  ニューイは「そうとも」と頷き、九蔵の腰の中を揉むようにかき混ぜながら幼児に言い聞かせるように続ける。 「ん……あっ……」 「黙って抱けと言う女性は多いが、そういう場合でも最低限は声をかける。勝手にイケると都合をつけて無言で急に挿れられたりしたくないだろう? マナーなのだ」 「はっ……俺はいちいち口にされても恥ずかしいと思ってたけど、確かに無言は、んっ……難しいな、セックス……」 「そうかい? 相手に合わせるだけである。人付き合いと同じだよ」 「それが難し、ぁっ……っ」 「ふふ、九蔵は私が黙って食事をするときっと嫌だと思うのだ。だから話すし、無言が好きな相手なら黙るぞ。お付き合いもセックスもただそれだけの単純なものさ。すぐ慣れるとも」 「ふ、っ……どうせ俺は童貞です……ぐ」  紳士的なニューイのマナー講座に、九蔵は唇をとがらせた。  性欲もあり男女ともに恋愛対象というバイでありながら恋人いない歴イコール年齢な九蔵には、どうせ関係ない話だ。  誰かを抱く機会はきっとない。  そう思ったのに、ニューイはチッチと首を横に振る。
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