第二話 気になるモテ期

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  ◇ ◇ ◇  いくらうまい屋のメニューが割引きもついていて安いとはいえ、毎日持ち帰りを食べていてはエンゲル係数が酷いことになる。  そう考えた九蔵は、スカスカだった冷蔵庫に多少食材を入れておくことにしているのだ。  一人暮らしだった時は食パンやカップ麺、冷凍ご飯にふりかけや卵をつけて食べるだけだったのだが、ニューイがいるとそうもいかない。  比較的まともな食事を毎晩用意するため、九蔵はバイトでしか使わなかった調理スキルを我が家でも奮うことになっていた。 「玉子焼き……」 「朝食べたから夜はダメ。今日はサケのカマな」 「うむむ。それでは、私はご飯をよそえばいいかい?」 「おう。ただし、飯をギュウギュウ押さえ込んで茶碗としゃもじ粉砕すんなよ」 「うっ、そっとするとも」  グリルを洗うのが面倒でフライパンを使いサケカマを焼く九蔵から、大きな子犬が離れていく。  料理ができないくせに、ニューイは周りをうろうろするのだ。  なにかしら手伝いを与えておいたほうが大人しいので、ここのところは軽い指示を出している。  昼間は九蔵が図書館で借りてきてあげた料理の本を見ているニューイなので、やる気はいつもたくさんある。 (そもそも怪力なのが問題なんだよな……)  九蔵はジュウゥゥ、と焼けるカマの様子を見ながら、苦笑いした。  やる気があるのはいいことだろう。  力加減さえ身につければ、いつかニューイも人並みに料理ができるはずだ。  そうやって炊飯器からせっせとご飯を注いでいるニューイを横目に見ていると、ポコン、と九蔵のスマホがメッセージの受信を伝えた。  エプロンのポケットから取り出し、メッセージを開く。 『こんばんは、九蔵。今日は仕事中にごめんな。それで、食事に行こうっていう約束、いつにする?』 「うおっ」  相手は桜庭だった。  なにも考えずに開いてしまった九蔵は一瞬驚き、理解と共に妙に緊張して心臓がバクバクする。  既読をつけてしまったらすぐに返さなければならない。  ルールはないが、世の中的にはなんとなくそんな気になる。もともとこういうメッセージの返信が苦手なので、「うぁ~」と唸りながら返事を打った。 『こんばんは。気にしてない。再来週はまだシフト出してないからいつでもいい』 (わ、我ながら実に素っ気ねぇな……)  九蔵は意味もなく眉間を揉み解す。  機嫌は悪くないし怒ってもいないのに、用件だけ伝えるといつもこうなるのだ。  澄央含めバイト先の人には事前に断っているが、桜庭は春の嵐だったのでフォローしていない。  嫌な奴だと思われないかと内心焦っていると、すぐに既読がついて、返事が来た。 『ありがとう! それなら俺は土曜日だと嬉しいな~』  どうやら桜庭は、ちっとも気にしていないらしい。  九蔵が桜庭の予定に合わせるぞ、という意味でいつでもいいと言ったことをわかっていて、むしろ喜んでいる。ように見える。
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