第二話 気になるモテ期

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「天使系プリンス……」 「…………」  ニューイに続いて性格まで素晴らしいイケメンとの出会いに、九蔵は目頭を押さえて感激した。  というか、桜庭は完璧だ。  ニューイと違って押しが強いわけでもなく、九蔵に判断を仰ぎつつも、人任せなわけじゃない。  本屋の店員にも優しく、財布を拾った九蔵にありがとうが言え、お礼をしようとも言ってくれる。 『わかった。休み取る』 『よし。それじゃ、細かい予定はまた日が近づいてから考えよう。予定が変わるかもしれないからね』 『わかった』 『ついでにこのまま少し話せる? 忙しい?』 『いや、飯作ってるだけ。できるまでなら大丈夫』  ポコン! と送られたかわいらしいネズミのスタンプが『やった~!』と喜ぶ姿をリアル桜庭に重ね、九蔵は天を仰いだ。 「はぁ~……良き。押しつけがましくなくしれっとトークタイムに入りますか。そうですか。イケメンかよ。イケメンだったわ」 「…………」 「つーか俺、こんな完璧イケメンとマインしてて金払わなくていいのか? これタダ? 嘘だろ神様。非の打ちどころがなさすぎて二次元かと思ったぜ。俺にトークスキルがねぇから楽しませられるかわからんけども……って、うおっ!?」 「…………」  独り言の要領で、ポロポロと口から溢れるコメント。  しかしカチ、とコンロの火を止めてサケカマを皿に乗せようとした九蔵は、背後に立っていたニューイにビクッと身を跳ねさせた。 「…………」  なぜならニューイが、珍しくむす、と口元をへの字に曲げて拗ねていたからだ。  ついでに言うと、手に持っているしゃもじが明らかに握り潰されている。よく見ると涙目でもある。さながら不貞腐れた幼稚園児じゃないか。 「…………」 「にゅ、ニューイ?」  九蔵は軽く引いてしまいつつも、とりあえずスマホをポケットにしまってニューイのへの字口を伺う。  途端──ニューイは指先をもじもじとこねくりあわせて、くだを巻き始めた。 「先日から、九蔵は銀髪のイケメンなるものを褒めちぎっている」 「お、おう」 「それは私だって構わないのだ。九蔵の好きは九蔵のもので、私がどうこう言う権利はない。そういう約束だからな」 「おぉ、そう、だな……?」 「だがしかしっ!」 「へっ」 「それはっ! 九蔵が私と玉子焼きを食べている時に話をしてくれていたから我慢できたのだっ! 抱き着いてもいいかい!?」 「はっはいっ!」 「うむっ!」  怒涛の勢いで尋ねられてつい頷くと、むぎゅうっ! と抱きしめられ、腕の中に閉じ込められた。きちんと聞いてからするあたり、九蔵の教育の賜物だ。 「うぅぅっ……っ! 共有できないものは困るぞ……っ!」 「いや、まっ……ぐふっ……」 (ちょっ……くそ……っし、シラフでハグは結構、死ぬ……っ!)  そこは褒めてあげたいが体温上昇が止まらず、九蔵は身動きがとれなかった。  どうやらニューイはマインのアイコンから、桜庭が九蔵の話によく出てくる銀髪のプリンスだと気がつき、対抗心を燃やしているようだ。
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