第二話 気になるモテ期

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「くぅーん……っは! や、やってしまった!」  しばらく洗面所を破壊して洗濯物に埋もれていたニューイは、我に返ってアワアワと慌てた。  見るからに手遅れな洗面所と、自分の手にある裂けた九蔵の衣服。悲惨だ。 「どっどどどどっどうしたらよいのだ……!? またやってしまったぞ……! 洗濯物を直して……っいや、直しても私には分別できないっ。けれどいつもこうでは、いい加減九蔵に愛想を尽かされて、追い出されてしまうのである……っ」  ニューイは途端にべそ、と涙目になり、大きな体を小さく丸めてカランコロンッ! と頭蓋を鳴らした。  ニューイは知っている。  普通ならとっくに追い出されていてしかるべき自分が追い出されていないのは、なんやかんやでニューイを大事にしてくれる九蔵の優しさだと。  優しい九蔵が愛おしい。  生まれ変わっても優しい。  好きだ。好きだ。愛している。  九蔵には秘密だが、もういっそ人間らしくなれれば、ここでこうして二人で暮らすのも幸せだとすら思っている。  けれど──……最近は九蔵のことを考えると、感情の歯止めがまるでバカになってしまうのだ。  ここで一人で待っている時、ニューイはいつも九蔵のことを考える。  出会った時は、イチルと九蔵の違いばかり目がいって、どうして、なんで、ともどかしさばかり感じていた。  それが紐解けてそっと寄り添ってみると、真っ赤になって控え目にごまかす九蔵。  九蔵がニューイの顔がいいと言っても、ニューイにはピンとこない。  ニューイには九蔵の魂のほうが美しいと断言できる。けれど九蔵は自覚がない。こんなに汚いのだと語る。  あんなにいじらしく突き放されたのは、初めてだ。  あの瞬間は、ニューイはイチルでもなく、イチルの魂を持つ九蔵でもなく──……ここにいるただの九蔵を、抱きしめたいと思った。  我慢しきれず頬に触れると、指先が熱く感じる。本心をできうる限りで甘くして告げれば、呆れたように息を吐き、花が咲くように笑った。  笑い方は、イチルにそっくりだ。  けれど生まれた笑顔が九蔵のものだったから、魂の器が違うということの意味を、よく理解する。  なににも必死にならないようですぐに諦める大人ぶった九蔵の笑顔は、無垢で無邪気で、美しい。  ──本当に……この笑い方をされると、私はいつも、君たちをもっと笑わせたくなるのだよ。  それから九蔵に合わせて距離を保つことにしたニューイは、日に日に増えていく感情を抑えることにずいぶん苦労しているのだ。  この胸の高鳴り方と気持ちが止まらない奔流は、まるでイチルに恋をした時のようだと思う。  共に食事をする時間が楽しい。  味わうための夜が胸を高鳴らせる。  唯一無二の親友を紹介されるとなり感激したが、抱き合う二人に萎れてしまいそうになった。  九蔵の伴侶としてのポジションが危ぶまれ、九蔵から少しも離れたくなくなる焦燥。  喪失は悲しい。二度と味わいたくない。  確かな独占欲だ。恋の証明とも言う。
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