第二話 気になるモテ期

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 恋敵ではないとわかった時の手ひどい安堵。臆病者だと心で苦笑いした。自分はいつの間に狭量になってしまったのだろうか。  だからこそ、最近九蔵が素敵なのだと褒めそやす銀髪の存在が、我慢ならない。  メッセージを送り合うなんて、ズルいと思う。  ニューイとて脳内ダイレクトメッセージなら送れるというのに、九蔵からの返事が貰えないなら無意味だ。  数多の揺らぎ。焦燥。  長い回想だったが、そんなわけである。  ニューイはいち早く家事をマスターして自分のほうがイケているとアピールしたいのに、目の前には塵と化したシャツしかなかった。  またの名を、絶望だ。 「くそう、全ては電化製品が複雑で脆いせいである……! スマートフォンがあれば、このシャツの言い分も九蔵に聞けたのだ……! 九蔵と合法的にメッセージのやりとりもできた……! 帰ってきた九蔵にも褒めてもらえたと言うのに……っ!」  べそべそべそ、と完全にダメになってしまったニューイは、恨みつらみをこぼしながら項垂れる。  任されている家事は洗濯だけではない。  他に掃除機をかけなければならない。  休日は九蔵がしてくれているが。  朝食の皿だってニューイが洗う。  夕飯は九蔵がしてくれているが。  昨日九蔵が夜に干してくれた洗濯物を硬くなる前に取り入れなければならないし、それを畳んで各所にしまうのだ。  ───こ、こんなところでうずくまっている場合ではないではないか……!  泣きべそをかくニューイは、使命感により、空っぽの頭蓋骨の中身を必死に総動員して考えてみた。 「……!」  ふと、一つのアイデアが浮かび上がる。  そうだ。あの手があったぞ。 「こうしちゃいられないっ」  ニューイはひらめきの赴くまま、いそいそと外行きの服装に着替えた。  悪魔のニューイは風呂に入らないし、着替えだっていつもの衣装なら指カッチン一つでまかり通る。  人間の服は柔らかいので、そーっと足を通してそーっと着こなす。 「よし。九蔵は玄関から出ると鍵をかけなければいけないので、出てはならないと言っていたぞ」  それらを着こなしたニューイは、元通りの人間スタイルで笑みを浮かべてニコニコと頷き、ガラッ! と窓を開けた。  そしてそのまま──大ジャンプ。 「九蔵のアルバイト先へ行って、直接聞けばいいのだ!」  ──そうすれば九蔵と話ができるし、洗濯だってできるじゃないか!  意気揚々と窓からアパートの塀に飛び降り、靴だけは自前のブーツでトンッ、トンッ、と跳ねていく。  人間は空を飛ばない。  なので人間に紛れて人間生活中のニューイも、もちろん歩いている。  塀の上は見晴らしがよくて歩きやすい。前に九蔵に聞いた道順を迷うこともないはずだ。 「おっと猫よ。すまないね」 「ンニャッ!?」 「なんだお前はって、人間じゃないか。ははは」  昼寝をしていた猫をまたいで軽く挨拶だってしながら、ニューイはにこやかな微笑みを浮かべる。  本人的には問題なく、うまい屋へと足を進めていくニューイであった。
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